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中国の食品安全問題対応にみる強圧と恐怖政治の失敗

更新日:2007年08月23日

アメリカや中南米で起きた中国産原料を用いたペットフードや練り歯磨きへの毒物混入問題に端を発して、中国の食品安全問題が大きな関心を集めています。中国政府の発表では、食品を輸出している中国企業の2割が添加物使用その他で問題を起こしていたそうです。


完全な失敗だった中国政府最初の対応

来年の北京オリンピックを前にして、人間生活の大前提である食の安全性に対する信頼が大きく揺らいだことは、本当に深刻なことでしょう。現に、中国へ旅行する人の数も減っているといいます。中国政府は、対応に頭を悩ませているに違いありません。ところで、私はいまも続く一連の経過のなかで、「危機に際して、組織はどのように対応すべきか」という問題を深く考えさせられました。とくに中国政府の対応についてです。

じつは中国の輸出食品や農産物の安全性については、わが国では数年前から問題を指摘する報道がありました。今回、世界的に絶大な影響力をもつアメリカ政府が率先して、中国の薬剤や食品の安全性に問題ありと認定したことは、中国政府を大きな窮地に陥れることになったのだと思います。

問題にされたのは、有機化合物メラミンや不凍液の材料でもあるジエチレングリコールという物質をペットフードや咳止めシロップに添加していたことでした。ジエチレングリコールは、甘味と粘性のある合成剤でかつてワインへの混入事件で毒性が確認されていました。

ところが、アメリカ政府の食品医薬品局(FDA)が指摘した事実内容に対して、当初、中国政府は全面的に反発するような態度をとりました。ウェブサイト版「人民日報」掲載の記事に、そのいい分がわかりやすくまとめられています。

「米食品医薬品局(FDA)が中国産歯磨き粉に有毒物質ジエチレン・グリコールが含まれていると指摘し、回収に乗り出したことついて、品質監督機関の国家質量監督検験検疫総局(質検総局)は二日、この件を非常に重視するとしたうえで、米政府に科学的な立場から事実関係を究明し、適切に処置するよう求めた。……中国衛生部は専門家を集めジエチレン・グリコールの危険性について意見を集約。同物質は毒性が低く、人体に入っても速やかに排出され、蓄積することはないほか、発がん性や奇形児、突然変異の原因になるとの証拠が見つかったことはないと主張した」

なんと、国際的に毒性が認定されている添加物について、正体を明らかにしない専門家を集めて検討させ、「毒性は低い」と意見を集約させたとの話を堂々と述べたのです。中国では、「権威ある国家機関がこういっているんだ」で通るでしょうが、国際社会ではこんな理屈が通るわけはありません。

もちろん、こうした中国政府の態度は、世界の人々の失笑を招かざるを得ませんでした。当の中国政府も、コメントの変更すらしてませんが、すぐにジエチレングリコールを製品に混入させた中国メーカーを捜索したうえ、責任ある部署の人たちを検挙しています。問題がなかったら、こんなことをする必要があるはずありません。

批判のエスカレートと重なる拙速な対応

以上のような対応は、わが国を含む国際社会の中国政府に対する不信を広げました。わが国でも、学校給食の材料である中国産キクラゲから基準量を超える残留農薬が検出され使用停止になる事件が報道されました。

こうした動きを受けて、中国政府は食品や薬品を輸出している企業を調査し、「約2割が問題を起こしている」と発表するにいたりました。その一方で、以前、収賄で訴追されている薬品の安全行政に責任のあった元幹部が、「死刑」のスピード判決を受け、ただちに刑が執行されるという出来事もありました。これは。一種の「見せしめ」と受け止められ、中国政府への信頼を増すどころか、恐怖政治ぶりで世界を慄然とさせることになってしまいました。

輸出企業の調査についても、日本の報道機関の指摘では「日本の厚生労働省やアメリカ政府の指摘した問題を集計しただけの内容」とのことで、自ら監督して情報を収集するだけの能力のなさを露呈するものとなってしまったのです。

中国が事実と責任を率直に受け止めたら?

一連の中国政府の対応は、かえって事態を深刻化させ危機を抑えることができないままで推移しています。後は、時間の経過による沈静化を待っているようにも見えますが、きっと何か抜本的な措置がとられるであろうことを期待せずにはいられません。中国は、日本にとって大切な隣人だからです。

中国政府の大国らしくない拙速な対応は、急速な市場経済の発展に政府機構の改編と公務員の意識変革が追いついていないためだといわれています。広がる一方の莫大な規模の経済活動全体を統括できるようになるのは、容易ならざることでしょう。

しかし、今回の事態を逆にチャンスにしていく対応ができたのではないでしょうか? たとえば、アメリカ政府の指摘に対して、機械的反発と自己防衛意識から根拠薄弱な反論をするよりも、「問題は受け止めます。いっしょに改善に取り組みますから協力してください」と提案したら、どうだったでしょうか。また、日本政府に対しても、通関のさいの衛生検査で引っ掛かった事例を共同で検討し、国内での指導に活かすという姿勢へただちに転換したら、日本国民の中国政府に対する目はどうなったでしょうか。

中国は、アメリカや日本とは政治体制の異なる国ですから、政府機関の動く原理も違ってきます。しかし、大切なのは大局的な利益です。そこを見通せば、おのずととるべき道も明らかになってくるのです。

幸い、中国政府はアメリカ政府による中国内での調査を受け入れ、全面的に協力すると表明したそうです。日本との協力関係も深める方向で協議が進んでいると報道されています。

危機管理とは、責任の回避や「厳罰主義」での対応ではなく、責任と事実のありのままの受け止めと、大局的な見地に立った冷静な対処なのです。そうしてこそ、関係する周囲の協力を得られ、以前以上の信頼も深められるのだと思います。貴重な教訓にしたいですね。

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