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発想の変化から生まれた旭山動物園の再生

更新日:2006年08月24日

国内最北にある小さな旭山動物園は、2004年、2005年の夏季累計で、上野動物園を抜いて入園者数日本一となった。昨年度は年間を通じて全国2位の入園者数を記録している。一時は客足が遠のき、廃園の危機に陥った同園が見事な復活を遂げた要因は、スタッフの意識革命にあった。


 
動物本来の動きを見せる「行動展示」は、飼育担当の自主性から生まれてきた/旭山動物園のHPの写真をお借りしました
動物本来の動きを見せる「行動展示」は、飼育担当の自主性から生まれてきた/旭山動物園のHPの写真をお借りしました

危機意識の共有から行動が生まれた

旭山動物園の“奇跡”ともいわれる復活は、マスコミにも取り上げられ、多くの人が知るところとなっている。同園の来園者数は70年代後半までは年間約40万人を維持していたが、その後だんだんと落ち込んでいく。学校や幼稚園などの遠足で子どもは来るものの、休日の家族連れが減っていったのだ。ともすれば「動物園の動物は動かなくてつまらない」「くさい、きたない」といった印象が来園者の足を遠ざけていたといわれる。

同園としても危機意識をもち、たとえば1983年にはジェットコースターを園内に導入し、集客をはかる。ところが導入当初こそは年間入園者が59万人に増え、持ち直したかと思えたが、間もなく減少に転ずる。所詮、動物園が遊園地という違う土俵で勝負をしても勝ち目はなかったのである。

意を決したスタッフたちは、危機的な状況のなかでこそ長期的視点で自分たちの理想の動物園を考えようという行動を開始する。仕事が終わるたびに、飼育担当者を中心としたスタッフたちが三々五々集まり、「動物本来の魅力を伝えることでお客さんに来てもらえるようにしなければ」と夜遅くまで議論する。そうしたなかで、理想的な動物園の未来図を描き、共有していったのである。

そもそも動物園は、動物を見にくる場所だ。そこでは飼育担当者は裏方であり、来園者の邪魔にならないようひっそりと仕事をしている。イルカショーや猿の芸を見せる一部の担当者だけが表舞台に出ている。それが動物園のあり方だったのだ。

しかし一方で、本当に動物の特徴やかわいさを知っているのは、飼育担当者がいちばんである。その飼育担当者が、担当の動物を観客に説明するのはどうか。こうして生まれたのが、旭山動物園では当たり前のこととなった、飼育担当者によるワンポイントガイドだ。

ワンポイントガイドは86年にはじまった。たとえばゾウの担当者が「これがゾウの1日分の餌です。みんなで持ってみましょう」と来園者に説明したり、紙芝居でチンパンジーの子供が産まれたときの話をする、という創意工夫をしてきた。そしてライブな形で接客することで、“動物相手の仕事”という自己完結的な意識が“お客さんのために何ができるか”という方向へ開かれていく。意識変革のはじまりであった。

飼育担当の自主性が「行動展示」に

園内の施設にも改良を加え、動物本来の能力が発揮できる「行動展示」に変えたのも“どうしたら来園者に喜んでもらえるか、動物を知ってもらえるか”という発想からだった。
たとえば『もうじゅう館』といわれる施設では、ヒョウを真下から見られるスポットがある。猫科の猛獣は、昼間は寝ていることが多いため、来園者ががっかりしないように、寝ていても下からのぞけるようになっている。それも、ヒョウがその場所を好んで寝るように、風通しがよく、ちょっと小高になっている場所にしてある。

また『オランウータン空中運動場』では、高さ17メートルの擬木をオランウータンが登って頂点に立つと、もう1本の擬木にかかるロープをつかんで渡れるよう、野生に近い場面を演出。『あざらし館』では、水槽から回遊できるように置かれた垂直のチューブをアザラシが上下に泳ぎ、入園者に驚きと感動を与えている。旭山動物園では、このように客と動物の視点の両方がよく考えられており、だからこそ、この動物園が全国各地から人気を呼んでいるのだ。

この展示方法は、飼育担当者の自主性から生まれてきた。同園では、飼育担当者が育てたい動物を自分で決め、飼育から展示方法まで一切を自由に考えることができる。もちろん責任の範囲は非常に大きくなる。しかしだからこそ自分で考え、提案していく飼育担当者が生まれてきたのだ。そこには「飼育担当者は飼育するのが仕事」といった、閉ざされた発想はない。

つまり私たちの世界に置きかえてみれば、「営業は営業」「企画は企画」という画一的は発想では、組織の発展・再生はありえないということになる。スタッフ全員が危機意識を共有し、「お客」と「動物」のためへと発想を変化させたことから生まれた旭山動物園の再生。示唆するものは多い。

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