日本の活力を奪うものの正体
さかもと未明の言わずにはいられない
更新日:2012年08月01日
※月刊WizBizバックナンバー(2012年7月号)よりお届けいたします。
|
![]() |
リーダーの条件 |
2012年6月27日 |
決断の時には |
2012年5月27日 |
生まれ変わる |
2012年5月2日 |
人事の力 |
2012年4月4日 |
コンプライアンスの重要性 |
2012年3月7日 |
世界に通じる日本の可能性 |
2012年2月8日 |
いざという時にどう備えるか |
2012年1月11日 |
リーダーシップとは |
2011年11月30日 |
セルフモチベーション |
2011年11月2日 |
彼岸に思う |
2011年10月5日 |
祭りに見る人間の底力 |
2011年9月7日 |
ボランティアが熱い |
2011年8月3日 |
無自覚な享受から脱する時 |
2011年7月6日 |
大震災に思う──“真っ当”な国になるために |
2011年6月8日 |
好意を受ける難しさ |
2011年5月18日 |
仕事を失って見えた「初志貫徹」の道 |
2011年4月6日 |
裸の心で得る縁 |
2011年3月9日 |
私見、後継者問題 |
2011年2月9日 |
「らしさ」を超えて |
2011年1月5日 |
われらが父祖に学ぶ |
2010年12月15日 |
→バックナンバー一覧 |
先日、日米関係の現状と未来についての講演を聞きに行った時のことだ。主催者へ、若い女性が質問した。
「日米関係は、確かに不平等だと思います。さらに中国が台頭する中で、これから私たちの世代は、どうしたらいいのでしょう?」
その声は消え入りそうにか細かった。彼女が懸命に質問したことは評価したい。でも私は、その元気のなさと質問の内容に愕然とした。不平等だと思うなら、彼女はなぜそれを改善するために、戦おうとしないのだろうか。しかし、かつては私も彼女のように、気力のない若者だったことを思い出した。同時に、私たち戦後育ちの人間は、すべからく「戦うことは悪」と教育されていたことも。
私たちが受けた教育の中で、特に強調されていたのが、「戦争は絶対にいけないこと。命はかけがえのないものだから大切にしよう」というものだったと思う。そして、「地球は一つ。人間は平等」と、日本人であることよりも、世界の平和を優先すべきだと言われてきた。
さらには、「大切な命なのだから、危険なことはしてはいけない、させてもいけない」。「勉強していい大学に入りなさい。そうすれば安定した生活ができるし、年金も充実している」。「これからは国の福祉が老後を保障してくれるのだから、親のことは考えなくてもいい」。「大変なのはわかっているから、無理に結婚することも、子育てをする必要もない」と言われることもあった。
そして、そのとおりに私たちは成長した。結婚する人、子どもを持つ人は減り、したくない仕事はせず、引きこもる若者が増えた。社会に出ても、「戦うな」と言われ、それを順守しようとする若者たちは、諸外国の台頭になすすべもない。それで個々人が幸福ならいいが、国内の自殺者は、年間3万人を超えているのが現状である。不況とはいえ、衣食住に極端に困るわけではない国で、なぜこれだけの人が絶望して死ななくてはならないのか。
先日私は、幼少期を過ごした土地を訪れた。神奈川県藤沢市の、小田急線・長後(ちょうご)駅と戸塚駅の中間くらいの場所にあるのだが、そこに立った時、以前父に聞いた話が思い出された。
「俺が高校生になってすぐ爺さんが死んじまったから、少しでも家計を助けなきゃと思ってな。授業が終わると、横浜の高校から戸塚駅に出て、駅から自転車で大船の珠算塾まで行って働いたんだよ」
戸塚から大船に行って働き、長後駅近くの自宅に帰るまでの道のりはけして短いものではない。必要に迫られてとはいえ、相当大変だったろうと思う。しかし、その頃のことを父は誇らしそうに笑って話したものだ。「お袋が『助かるよ』って目に涙をためてくれてな。どんなに大変でも、疲れたなんて思わなかった。勉強もして、早く就職したかった。お袋に楽をさせたかった……」
そんな話を聞いたことを思い出し、私は思った。「愛とは、平等とは違うもの。誰かを特別に思い、必要ならその人のために戦うこと」なのだ。人生は楽ならいいわけではない。愛する人の面倒を見るために私たちは大きくなり、勉強し、働く。それが大変なほど、生きがいは大きいのだと――。
私たちの受けた教育、価値観は、根源で間違ってはいなかっただろうか。人間は、ただ楽に、自分本位に生きられれば幸福になれるような、矮小な生き物ではない。誰かを特別に思い、尽くしたり頼ったりすること、その相手のために働き、戦うことで、私たちは活力を得るのである。「平和」「平等」「福祉」という聞こえのいい言葉で、生命力の根幹を奪われていないか、私たちは問い直す時が来ている。
著者プロフィール |
さかもと未明 |
---|