決断の時には
さかもと未明の言わずにはいられない
更新日:2012年05月30日
※月刊WizBizバックナンバー(2012年5月号)よりお届けいたします。
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先般、占い師に洗脳されたという芸能人の生活が話題になった。それ自体は極端な例だったとしても、大切な「決断」の場において、占いに頼ったり、人の助言を求めたりする人は多いだろう。
実を言えば私も、若い頃は随分と占い師を頼った。「漫画家になりたいけれど、なれるでしょうか?目指してもいいのでしょうか?」と、さまざまな占い師のところを訪ね歩いたのである。
しかし、占い師に「やっていけるよ」と言われたところで、結局その時私は何の行動も起こせなかった。
「生活できないかも」と、リスクを考え、アルバイトばかりをしていた。今思えば、書きたいものさえ見つけられないモチベーションの弱さ、すなわち才能のなさを自認するのが怖かったにすぎない。だが、私はそれを「漫画家を目指していいのかどうか」という問題にすり替えて逃げていたのである。正直、その頃の私の精神性のままでは、とても作家にはなれなかったろう。
そんな私でも、やがて「決断」をしなければならない時は来た。友人たちはどんどん就職を決めていき、私もそれにならうように一度は就職をした。だが、解雇に近い形で退職。自分の生きる場所を失っていく中で、私はまたも占い師を訪ね歩き、納得いく答えを探すということを繰り返した。
そんな終わりのない彷徨の中、私はやがて気づいていく。「自分の気にいらない結論を言われると、そうでない回答が得られるまで、占い師を変えて聞き歩いてしまう」ということに……。「本当は自分がしたいことは決まっていて、それを後押ししてくれる言葉を求めているにすぎない」ことを、自覚するようになったのだ。
それを自覚した私は、「そんな弱い私でも、決断していくにはどうしたらいいか」を考え続けた。悩んだ末に私が到達したのは、以下のセオリーだ。すなわち「決断」し、目標を実現するために必要なのは、まず「目的をはっきりさせること」「目的の優先順位を明確にすること」そして、「実現に必要な手段を獲得すること」である。
漫画家になりたいのが目的なら、描くことでしか道は開かれない。生活の安定や娯楽などは、最優先順位ではないのだから、手に入らなくていいと覚悟する。手段としての生活費はどんな形ででも稼ぎ、応援してくれる人も探すしかない。これを満たせば目的は達成される。ならば、あとは行動するのみだ。ここに迷いの入り込む隙はない。
このセオリーを獲得して以来、私は占い師を頼ることがなくなった。
占いを完全否定するわけではない。今も占いは好きだし、事業を始める時期など、判断の参考にすることはある。しかし、「目的」「優先順位」「手段」の三つに関してだけは、自分で決断するしかない。そして、この三つがはっきりしていれば、途中で判断に多少のブレが生じてしまったとしても、取り返せるものなのである。
それでも迷う時、私のとる行動は二通りしかない。「迷うということは、どうしてもしたいわけではないからやめる」か、「失敗を承知でも、やりたいからやる」か。
そういったことも、臆病だった昔の私は、何度も自分の中で理論化したメソッドを反すうし、反証と検討を繰り返してやっと決断していった。けれど、目的さえはっきりとすれば、あとの決断はそんなに難しくないと、私は体験的に学んでいく。要は、自分は何のために命を懸けられるかという「覚悟」が一番大切なのだ。それを獲得するのは決して簡単ではない。しかし、それさえ決まってしまえば、他人に決断をゆだねる必要もなくなるのである。
著者プロフィール |
さかもと未明 |
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