0.01ミリのビジネスヒント
莫邦富的視点〜21世紀の大国・中国を見つめる〜
更新日:2015年03月31日
香港で駅へ移動する途中の地下通路の中で、0.02という数字を強調した広告に気付いた。岡本という会社名があるから、すぐに日本の企業だとわかったが、何の商品なのかはとっさに理解できなかった……。
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香港の紅磡駅付近で見た日系のコンドーム広告
昨年秋、香港に出張した際、広州に行くため、電車一本で行ける方法を選んだ。つまり紅磡(ホンハム)駅から広州に行く直行列車に乗るのだ。荷物を引っ張って香港漓江大学から隣にある紅?駅へ移動する途中、地下通路の中で、0.02という数字を強調した広告に気付いた。岡本という会社名があるから、すぐに日本の企業だとわかったが、何の商品なのかはとっさに理解できなかった。
広告前を数歩も過ぎ去ってから、あれだ! と急に悟った。急いで戻ってみると、案の定コンドームだった。
資料によれば、いまや一大産業となったコンドーム、つまり、英語のCondomは、その発明者である17世紀後半のイギリスのJoseph Condomという医師の名前に由来するたものだ、と説明されている。
現在、全世界で毎年150億コのコンドームを作っている。利用者は約7億5000万人にのぼる。しかし、誕生してから400年も経っているが、コンドームはここ50年間ではあまり大きな技術的進歩がなかったと言われている。
それなのに、立地条件を考えると決して安くはないだろうと思われる香港の主要駅の前に、なぜこのコンドームの広告が出されているのか。きっと何か特別の理由があるのだろうと直感した。そう思った私は広告前に戻ってカメラのシャッターを切った。
薄さの勝負でヒットを飛ばす新商品
広州に行く電車の中で、例の広告のことを考え込んだ。マイクロソフト会長のビル・ゲイツと妻メリンダによって2000年に創設された世界最大の慈善基金団体であるビル&メリンダ・ゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation、B&MGF)は、「次世代コンドーム」の開発に対し、創業資金として10万ドル(当時の為替レートで約940万円)の援助、そして事業継続のために最高100万ドル(約9400万円)の出資を行なったというニュースを読んだことがある。
インターネットで調べたら、次世代コンドームの詳細についてはゲイツも財団側も言及していないが、「男性から見て、コンドームの欠点はコンドームを使用していない時に比べて使用している時の方は快感が少ないということです」と述べており、財団の述べる「次世代コンドーム」は男性が喜んで付けるようなコンドームを想定しているようだ、といった報道がある。
つまり、ビル・ゲイツ氏らもコンドームの薄さに対して関心をもっている、と理解してもいいだろう、と考え込んだ。列車は広州へどんどん走っていったが、私もますます考え込んだ。
日本に戻ってからさらに調べると、相模ゴム工業という日本のコンドームメーカーがすでに2013年に世界で最も薄いとされる0.01ミリの商品を市場に投入している。その開発のために10年間かかり、耐高圧テストを2万回も行なった、という。メディアでは、どんなに激しい愛の行為にも対しても、一滴も漏らさないことを保証している、と報道している。コピーフレーズは「幸福の0.01ミリ」となっている。
香港で広告を打ち出しているオカモト社も追いかけるかのように、同じく0.01ミリの商品を開発した。
インターネットを通して海外の商品を購入している中国人のなかでは、それが新しいヒット商品となっているそうだ。家電製品などの分野で敗退し続ける日本はこうした地道な開発を進めている分野ではその底力を見せている。多くの中小企業にとってそこに潜んでいるビジネスヒントは参考となる価値が無視できない。
著者プロフィール |
莫 邦富(Mo Bang-Fu) |
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