私が見た2つの清里の表情に想う
莫邦富的視点〜21世紀の大国・中国を見つめる〜
更新日:2014年04月09日
早春4月、妻とともに山梨県北杜市にある清里を訪問した筆者。筆者が見た2つの清里の表情に、今日の日本が活写されていると思ったという……。
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廃れていく駅前
妻とともに山梨県北杜市にある清里を訪問した。これまでは、特急電車で小淵沢駅に降りて、出迎えの車で清里に移動するケースが多かったが、今回は小海線に乗り換えて清里駅まで移動した。その意味では、清里駅前を歩いたのは2年ぶりだ。目的地の萌木の村まではタクシーを呼ばずに散策がてら歩いて行くことにした。
そのため、普段、車の移動では気付かない変化に自然に気付き、いろいろと考えさせられた。
4月上旬の月曜日なので、駅前にも萌木の村までの道中にも人影がほとんどなかった。これ自体は別に驚いていない。私が驚きを覚えたのは、駅前の商店群のなかで駅舎に一番近いある大きめのレストランが閉店してしまったことだ。1年半前に、学生たちを連れて社会調査に来たとき、多くの学生と一緒にそこで食事した光景がまだありありと記憶に残っているのに、店はもう閉まってしまったのだ。清里の凋落ぶりに目を覆いたくなる。
萌木の村に行く途中、道路の右側に幽霊屋敷みたいな未完成のビルが建っている。曝け出されている鉄筋や鉄骨が錆だらけだ。すでに20年ぐらいは経っていると思うが、資金が途切れたため、建築を途中からやめてしまったビルである。その幽霊屋敷と呼ばれる未完成のビルは寂しい清里の町の風景を一層寒々としたものにしている。なぜ撤去できないのだろうかと、このビルを目にする度に、いつも不思議に思っている。
バブル時代、東京の原宿なみの賑わいを知っているだけに、今の寂れた清里に対して私はある哀愁を自然に抱く。時代の流れに抵抗するすべもなく流されていくのみという無力感を覚えた。
地元の元気さを取り戻そうとする萌木の村
しかし、萌木の村に近づいてくると、様子が少しずつ変わってくる。空き地が萌木の村の臨時駐車場に活用されている。繁忙期の萌木の村の賑わいぶりを思い出す。駅からはだいぶ離れているが、集客力のある萌木の村に近いという理由か、道路横にあるラーメン屋が営業中という看板を出している。
萌木の村に入ると、広場のところでは、石垣を作っている。環境整備のプロジェクトが動いている。自ら作業服を身にまとった舩木上次社長がショベルカーを操縦しながら、石を積む作業をしている。広場の横の丘の斜面に横穴ができている。ワインやウイスキーなどを貯蔵するワイン蔵に案内された。
中国の現場でいろいろ大きな工事を見慣れた目から見れば、ちょっとばかりの工事のように見えるが、少子高齢化が進む日本の地方の一企業の規模を考えると、その工事が進行している光景は逆に心強く見えてくる。特に駅から萌木の村までの荒廃ぶりを目の当たりにしてきただけに、逆境の中でも運命に負けずに前へ進もうとするその姿に、感動すら覚えた。
早春4月、今年の観光シーズンがまさに始まろうとするこの頃、駅前で実感した廃れていく地元の流れ、そして萌木の村で目にしたその流れに逆らって地元の元気さを取り戻そうとするその努力ぶり。私が見たこの2つの清里の表情に、今日の日本が活写されていると思う。
著者プロフィール |
莫 邦富(Mo Bang-Fu) |
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