読書筆記:企業を変えるカギ―を教えてくれた一冊
莫邦富的視点〜21世紀の大国・中国を見つめる〜
更新日:2013年06月12日
経済誌「プレジデント」に定期的に書評を寄稿している。この間、小山のように机の上に積まれていた本の中から、私が書評の対象に選び出した一冊は、稲盛和夫氏の『ゼロからの挑戦』だった。
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80歳の老人が倒産後の日本航空を見事再生させた奇跡
経済誌「プレジデント」に定期的に書評を寄稿している。この間、小山のように机の上に積まれていた本の中から、私が書評の対象に選び出した一冊は、稲盛和夫氏の『ゼロからの挑戦』だった。この本は、稲盛和夫氏が創業した京セラの歴史と彼の経営哲学を描いた『敬天愛人』(1997年刊)に、その後の歩みを加筆して新装版として出版したものである。
この本を選んだ理由は、もちろん、この80歳の老人が何も持たずに倒産後の日本航空に乗り込み、わずか2年でこの「傲慢さ、横柄さ、プライドの高さが鼻につき、お客様をないがしろにする」会社を見事再生させた奇跡を起こしたからだ。
稲盛氏の著作の一部は以前、うちの事務所がその中国語版の版権代理をやっていたし、稲盛氏と中国の最大の家電メーカー・ハイアールを率いる張瑞敏CEOとの交際をメディアに取り上げたこともあった。張CEOが事務所の隣にある書斎で、稲盛氏の本を本棚から出して、日本企業から、稲盛氏から学んだものを熱っぽく語ってくれた、といった体験も何度かしている。
その意味では、稲盛氏関連の書物が出てくると、自然に関心を注ぐ。最近、私が興味を覚えた一冊があった。原英次郎氏の新著『心は変えられる』(ダイヤモンド社)だ。
JALの再生からヒントをもらえ
原氏は、取材を始めた当初は、「労使関係が複雑で、『親方日の丸』だったJALが簡単に変わるものか」と思っていた。しかし、稲盛名誉会長、大西賢会長、植木義晴社長ほか多くの人たちを取材しているうちに、JALが変化しているのを体感し、しかも、「この変化は本物かもしれない」と感じるようになった。
たとえば、こんなエピソードがあった。
「JALカード10万人獲得大作戦」という全社的に取り組んだプロジェクトだ。実は、このプロジェクトは、経営破たんによってパイロット養成が中断し地上勤務に回っていたもとパイロット候補の社員が発案して始めた試みだ。それが全社的な取り組みに「格上げ」されたのだ。
私はJALカード以外に、ANAカードももっている。しかも、そのANAカードは、同社のトップとの会食に同席していた本部長から直接誘われて入会したものだ。約10年前のことだった。以来、実は、ANAカードは私のメインカードとして使っている。
その意味では、ANAがとっくに日常的にやっていたことをJALは倒産のピンチに遭ってから、ようやく目覚めたのだ。
JALカード10万人獲得作戦が目標に達成したとき、担当幹部がそのカード獲得の話をほかの企業に勤める友人にしたところ、「お前のところもようやく、普通の会社になったな」という感想が戻ってきたそうだ。
こうした現場での取材などを通して書かれた本なので、企業を変えるカギを教えてくれている。つまり人をまず変えないといけないのだ。JALの再生からヒントをもらえる一冊だった。
著者プロフィール |
莫 邦富(Mo Bang-Fu) |
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