東大教授のクレジットカード申請が拒否された日本の不思議
莫邦富的視点〜21世紀の大国・中国を見つめる〜
更新日:2017年08月21日
日本の会社に就職した著者はクレジットカードの加入を断られた経験があるという。1991年頃のことである。さらに、2007年には、世界的に著名な日本人の東大教授でさえ、日本の金融機構はカードの発行を拒否したのだそうだ・・・。
宇宙研究機構の設立者も「信用なし」と判断される
8月中旬の2日間は富士箱根伊豆国立公園の一角にある伊豆・天城高原で過ごす。これはすでにここ数年の慣例となっている。「天城会議」に参加するためだ。
以前、このコラムで取り上げたこともあるが、天城高原の中腹にIBM社が運営する天城ホームステッドという社内研修施設が建っている。正面に富士山の雄姿、左手に駿河湾、右手に相模湾を臨む絶好の環境の中にある同施設では、毎年夏に天城会議というセミナーが行なわれる。普段多忙な生活を送っている産・官・学・報など各分野のエグゼクティブが集まり、日中は世の中の最新動向とその研究結果、知見と情報の交換に熱い議論を交わし、夜は温泉で汗を流し、打ち解けた雰囲気の中で知的な交流を深めるというのが、その天城会議の趣旨だ。
天城会議の初日の主要内容は2人の講師による基調講演だ。今回の講師の一人は素粒子理論を研究する物理学者の村山斉氏だ。村山教授はアメリカ・カリフォルニア大学バークレー校で教鞭を取っているが、2007年10月から、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構初代機構長・特任教授を務めている。日本とアメリカを行き来しつつ活動している。
長年、アメリカに暮らしていた村山教授は2007年、日本側の求めで日本に戻り、宇宙研究機構の設立に当たった。日本での生活を始めるために、クレジットカードを作らなければならないと思って、とある都銀にカードの申請手続きをした。ところが、信じられないことが起きた。都銀から拒否された。日本での収入記録がないからというのだ。
日本から求められたハイレベルの人材で、しかも日本人なのに、日本社会に戻る最初のところで見えない壁にぶつかった。日本の金融機構のドメスティックぶりにあきれた思いがしたが、別に驚きはしない。
旧態依然の日本の金融機構●
というのは、日本に暮らす多くの外国人のほとんどが、こんなことを大なり小なり経験している。私も同じだ。
1991年頃、日本での留学生生活にピリオドを打って、そのまま日本の会社に就職した。給料振込口座開設の際、財閥系銀行の担当者からクレジットカードの加入をしつこく勧められた。言われた通り、申請したら、しばらくしてから「今回は諸般の事情でカードの発行を見合わせる」と断られた。通知の中に書いてある「諸般の事情」というあいまいな理由に特に怒りを覚えた。意地になって銀行の担当者に問い詰めると、担当者は「外国人にはカードを発行しないようです」とすまなさそうに本当の理由を教えてくれた。
それを再確認するため、私はJCBという日本最大のクレジットカード会社にも申請してみた。同じく発行を拒否された。
信用調査をしてクレジットカードを発行すべきか否か、その権限はもちろんカード会社にある。しかし、人種によってカードの発行を拒否するカード会社のご都合主義をその後広く批判され、多くのカード会社もその改善に努力したと思う。しかし、今回のセミナーで、2007年の時点でまだまだ見えない壁が崩れていないという厳しい現実を知って、嘆くしかできない。
一方、技術がどんどん進化し、電子マネーの全盛時代が日に日に近づいてくる。旧態依然の日本の金融機構は世界経済の波に果たして乗って行けるのか、とその心配を膨らませている。
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