電子支払いが都会の隅っこまで浸透し始めた中国
更新日:2016年12月02日
日本で少額の買い物をオンライン電子決済で済ます人がどれほどいるだろうか。SuicaやPASMOのほとんどはプリペイドだから、オンライン決済とは言えない。ところが中国では、現金を持たずに暮らすことが可能になっている……。
上海の虹橋交通センターで目撃したある光景
出張で中国に来ている。しかし、上海に到着した翌日早朝に、浙江省へ移動するため、8時過ぎの中国版新幹線の高速鉄道に乗ることになった。
上海の実家に泊まっている私と案内役を務める同行者も浦東に住んでいるので、新幹線の駅となっている虹橋交通センターに行くために、上海市内を横断しなければならない。朝の時間を節約するために、朝食もせずに家を出た。同行者も同じだった。虹橋交通センターに着いたとき、発車するまでまだ30分間ほどの余裕ができたのを見て、マクドナルドの朝食セットを持ち帰りで買うことにした。
注文を聞きながら、てきぱきレジ―のキーを叩いていた40代の女性店員は最後にこう確かめた。
「お支払は“支付宝”でしますか、それとも微信でします」
同行者は「微信で支払います」と答えながら、携帯電話をかざしたら、勘定作業は終了した。
ここに出ている“支付宝”とは、日本ではアリペイと呼ばれ、馬雲氏が率いるアリババグループが提供する中国最大規模のオンライン決済サービスのことを指す。
一方、微信は日本ではWeChatと親しまれているが、中国の大手IT企業・テンセント(中国名:騰訊)が作った無料インスタントメッセンジャーアプリのことだ。そこに電子マネーの支払いが簡単にできる機能をもっている。
つまり、その女性店員の最後の確かめは舞台を東京駅に置き換えれば、次のような質問になると思う。
「お支払いはスイカでしますか、それともクレジットカードでします」
現金を所持せずに来日してしまった弁護士の友人
食い入るような目つきでそのやり取りの光景を見つめている私に、同行者が説明してくれた。
「いま、中国国内では多くの店で微信(WeChat)などによる電子マネーの支払いシステムを導入している。高齢者も結構こうした支払い手段を使っている」
その説明を聞いた私は、今年の真夏に起きたある出来事を思い出した。
当時、私がいつも一緒に仕事をしている友人たちを束ねて、夏休みを楽しむ形でビジネスチャンスを探し求めるために四国を訪れた。上海にいる友人も数人、この旅行に参加した。その中の一人は、関西国際空港を利用して、合流予定地の徳島に駆けつけてくれた。
しかし、そこで意外なハプニングが起きた。上海で弁護士の仕事をしている彼は日本滞在歴も長いし、仕事の関係で日中間をよく行き来している。日中間の移動になれている彼は、空港を降り立ったとき、青ざめた。財布には日本円の現金を入れていないことに気付いたからだ。これでは、関西空港から徳島までの移動はできなくなる、と助けを求める電話が私のところにかかってきた。だが、すでに倉敷に到着した私はどうしようもないのだった。
結果から言うと、その弁護士の友人は最終的には無事に徳島に移動できたのだ。
「真夏なのに、冷や汗をかきながら、必死に洋服のポケットなどを探しまくったら、スイカカードを一枚持っていることに気付いた。しかも、幸いなことに、徳島までの移動に必要な金額をカバーできる残高があるのだ」
無事に徳島に行く電車に乗り込んだ友人は事情を説明した。
翌日、合流したとき、「いくらなんでも国境を跨ぐ移動なので、現金は多少持たないといけませんよ」とたしなめた。
友人は頭をかきながら、半分は反省の意を表しているが、半分は弁解がまいの説明をした。
「だって、上海では現金を所持しなくても携帯電話さえもっていれば、なんでも支払うことができる。だから、考えていれば、財布や現金を持たずにすでに2、3カ月暮らしてこられた。それで携帯電話をもっていることを確認できた時点で、すっかり安心して日本行きの飛行機に乗り込んだのだ。」
電子支払いが進んだ中国から来る観光客にも、このようなハプニングが起きる恐れがある。だから、今回の原稿は電子支払いをテーマにしたのだ。
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