中国人観光客がなぜ松阪市で神戸牛を求めるのか
莫邦富的視点〜21世紀の大国・中国を見つめる〜
更新日:2016年04月20日
中国では神戸牛の知名度が高い。和牛と言えば神戸牛という認識が中国で広がっているという・・・。
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覚えられないサブブランド
先日、山形市で鈴木憲和・衆議院議員が主催した「すずきのりかずと語る会」で、「山形の中国向けビジネスチャンスを拓く」と題した講演の機会をいただいた。400名ぐらいの来場者に、私が見たインバウンド事業現場の課題などをお話させていただいた。
そのなかで、地方自治体が海外に向けて地元をアピールするとき、ブランドの集中を求めるべきだ、と私は主張した。
たとえば、日本のテレビブランドをチェックしてみると、VIERA(ビエラ)、REGZA(レグザ)、AQUOS(アクオス)、BRAVIA(ブラビア)、REAL(リアル)、Wooo(ウー)……と数多くのブランドがある。しかし、それらのブランドはそれぞれどのメーカーのものなのか、と聞かれたら、全部答えられる人間は業界の人間を除いておそらくいないと思う。その意味では、これらのブランドの宣伝のためにつぎ込んだ宣伝費や広告費は有効に使われたとは言い難い。
その一方で、サムソンの広告戦略は単純明快だ。テレビも携帯電話もその他の家電類もサブブランドは一切使わず、すべてサムソンというブランドに統一して、広報・広告作戦を進めているのだ。
上記のサブブランドでテレビを販売しているのは日本の家電メーカーだ。そのブランドとメーカーとの照合は次の通りだ。
VIERA(ビエラ):パナソニック/REGZA(レグザ):東芝/AQUOS(アクオス):シャープ/BRAVIA(ブラビア):ソニー/REAL(リアル):三菱電機/Wooo(ウー):日立。
神戸牛の知名度に負けた松坂牛
それに似たような問題が、和牛の世界にも起きている。神戸牛、宮崎牛、松坂牛、米沢牛、飛騨牛、佐賀牛、石垣牛……数え出したら、切りがない。
しかし、以前から神戸から中国に行くフェリーで神戸牛が中国に持ち込まれているから、中国では神戸牛の知名度が高い。和牛と言えば神戸牛という認識が中国で広がっている。日本の牛肉は中国に正式に輸出できないにもかかわらず、以前、武漢市内で「神戸牛を食べれば、パソコンがあたる」という広告を見たことがある。
笑えない笑い話だが、三重県松阪市を訪れたとある中国人訪問団が美味しい牛肉を食べたいと言い出したので、ガイドさんが松阪牛の店に案内した。中国人訪問団の人たちは開口一番、神戸牛を注文した。もちろん、置いていないのだ。そこで訪問団の人たちがガイドさんへの不満を口にした。悔しいと思ったガイドさんが私に電話して、事情を訪問団の人に説明してほしいと助け船を求めた。
日本では、「松阪牛」は世界ブランドで、最高級肉の代名詞と見ているが、中国人の世界では、神戸牛の存在に勝てなかった。
山形市の講演を終えたあと、あるお医者さんが近寄ってきて、昨日、医学関連の会合で莫さんがおっしゃった神戸牛の話とまったく同様な体験をしたよ、と教えてくれた。その会合の会場に、3人もいた中国人から、みんな、彼に神戸牛を食べられるところを教えて、と頼まれた。おぼつかない英語で対応してみたが、情報がうまく伝わっていないと残念がっていた。「それにしても『神戸牛』の知名度が高いという印象を強く受けた」とお医者さんが言う。
その神戸牛のブランディング戦略に私たちはいろいろ学ぶべきものがある、と私は思う。まずはフェリーの関係で一番先に中国市場に進出できたという先発組の強みを生かした。次は、日本から中国に非正規に持ち込まれた和牛肉もほとんど神戸牛と言われている。こうなると、高く売れるからだ。つまり一種の天津甘栗のような現象が起きたからだ。ほかにも挙げられるだろうが、原稿の文字制限を大幅に超えたので、この辺で終わらせていただこう。
著者プロフィール |
莫 邦富(Mo Bang-Fu) |
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