在日中国人の手によって銀座に登場した仁淀川の茶プリン
莫邦富的視点〜21世紀の大国・中国を見つめる〜
更新日:2016年01月27日
高知県と中国との交流を仕掛けていた著者。こうした活動を交流を種まきと定義すれば、今年はその花が咲くのを楽しみにできるという……。
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ストップしていたプロジェクトが再開
ちょっとしたきっかけがビジネスチャンスになる。
この頃、つくづくそのことを感じている。
数年前、公共交通で移動すると移動時間から見れば東京からもっとも遠い地方自治体と言われる高知県と中国との交流を仕掛けていたが、例の島問題で日中関係が大きく揺れていたため、途中でストップしてしまった。
2015年から日本航空の現地支店長、県議員、地元の会社社長らの協力を得て、再度、その仕掛けを試みた。そのため、現地での講演や在日中国人を集めたモニターツアー、中国の農業・食品加工関連の視察団などを相次いで高知県へ案内した。
もちろん、こうした活動はSNSなどを通して、広く知られるように露出されている。そうしたら、在日中国人社会における高知県の認知度が高くなり、中国から2016年の4月または7月に、数十名の農業・食品加工関連の関係者を集めた視察団が高知県を名指して訪問したいという連絡が入ってきた。少しずつとは言え、しっかりした足取りで中国と高知県との交流の輪が私たちの手で広がりつつあるという実感をした。これらの視察団の訪問で、広がりつつあるこの交流の輪ももっともっと大きくなっていくだろうと容易に想像がつく。
中国市場との距離を効果的に縮める
実はそればかりではなく、日本国内に生活基盤をもつ在日中国人社会にも、その影響が現れている。
まずモニターツアー参加者からの声だ。
「これまで日本には20年間も住んでいたが、高知県のことはまったく知らなかった。しかし、訪問してからは、スーパーなどに入ると、高知県といった文字や表記が入っている野菜や食品類が目に飛んでくる。自然に手を伸ばして購入した。」
「高知県のいろいろなところに家族を連れていきたいと思っている。仁淀川や四万十川の畔に泊まってみたい。」
「レンタカーを借りて馬路村にもう一度行きたい。行く途中に、山の風景がきれいなところに自由に車を止めて、写真を撮ったりするような旅をしたい。」
「仁淀川の畔にある池川茶園で食べた、ほうじ茶プリンにハマったよ。食べたいと強烈に思っている」
こうした感想や声だけではなく、実際、ビジネスにつながったことも数件確認できている。その中の一つが、上記の声に出てきた池川茶園の茶プリンだ。銀座の中華料理のレストランのオーナーに池川茶園の茶プリンのことを話したらところ、すぐに仕入れてお客さんたちに提供するメニューが組まれた。最初に仕入れた商品は瞬く間に売り切れた。
高知県の山奥にあるスイーツはこうして銀座の高級レストランの食卓の上に登場したわけだ。銀座のお店にとっては常連のお客さんに珍しい地方色豊かなメニューを提供することによって、客の満足感を高めることができた。高知県の企業にとっては、心血を注いだ自分たちの製品が銀座のレストランのテーブルを飾ったことは誇りを覚える快挙と言えよう。まさにウィンウィン関係そのものだ。
しかも、スイーツだけではなく、四万十川の豊饒さを感じさせる水産物も東京の中華レストランで試食され、中国企業の依頼を受けて、新しい商品の開発を試みている企業も数社現れた。
高知県、いや、日本の地方自治体はこうして中国市場との距離を効果的に縮めている。もしこれまでのこうした交流を種まきと定義すれば、今年はその花が咲くのを楽しみにできるだろうと思う。
著者プロフィール |
莫 邦富(Mo Bang-Fu) |
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