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従業員と会社を助ける保険制度:通勤災害

更新日:2013年11月06日

先日、当社の従業員が自宅から会社に向かう途中、とある駅で電車を降りようとした際、混雑で乗降客に押されて転倒し、手足を打撲してしまいました。仕事中のケガは労災の対象になると聞いたことがあるのですが、通勤途中の場合はどのような取扱いになるのでしょうか?
 


 
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回答

業務中だけでなく通勤途中のケガや病気なども労災保険給付の対象となります。通勤災害の要件を満たしている場合には、保険給付の請求手続きをすることにより、治療費の補償が受けられる可能性があります。

解説

【労働者災害補償保険とは】

労災保険とは、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」)に基づく制度で、業務上の災害または通勤災害により、労働者が負傷した場合や、疾病にかかった場合、障害が残った場合、死亡した場合等について、被災した労働者やその遺族に対し所定の保険給付を行なう制度です。原則として、パート、アルバイト、外国人を問わず、労働者を一人でも雇用する事業は、労災保険の強制適用事業所となり、労災保険に加入することが義務付けられています。

労災保険への加入手続きは、事業所を管轄する労働基準監督署へ「労働保険 保険関係成立届」、および「労働保険 概算保険料申告書」を届け出ることにより行ないます。なお、労災保険の保険料は、雇用する労働者へ支払う賃金総額を元に計算し、通常は1年分をまとめて支払うことになります。

労災保険に加入した後、実際に事故等が起きた場合は、保険給付の請求手続きを取ります。労災保険には、大きく分けて「業務災害」と「通勤災害」に関する保険給付がありますが、今回は通勤災害を中心にご説明します。

【労災事故が発生したら】

通勤災害、または業務災害が発生した場合は、まず労働者の状況を把握し、治療が必要な場合は、病院へ行くよう指示しましょう。病院窓口では、健康保険証を提示せず通勤災害である旨を事前に伝えておくと、後々の手続きがスムーズです。
また、医療機関には、労災指定医療機関と、労災指定以外の医療機関がありますので、事前に会社近くの労災指定病院・診療所などを調べておくと良いでしょう。労災指定病院等であれば、通常は後日、指定の用紙を病院窓口に持参すれば、その場で治療費の還付を受けることができます(現物給付)。一方、労災指定でない病院等でも治療を受けることはできますが、その場合は、一旦治療費を全額自己負担し、後日指定した口座に、かかった費用が保険給付として振り込まれることとなります(現金給付)。

【通勤災害の要件】

通勤災害とは、通勤による労働者の傷病等を言いますが、労災保険の給付を受けるためには、労働基準監督署にて通勤災害として認定を受ける必要があります。通勤災害として認定されるか否かは、「住居」と「就業の場所」の往復等について、以下の要件に該当するかどうかにより判定されます。

(1)就業に関するためのものであること
移動行為が、業務に就くため、または業務を終了したことにより行なわれるものであることが要件として求められます。

(2)合理的な経路及び方法であること
住居と就業の場所を移動する場合に、一般に労働者が用いると認められる経路及び手段等であることが要件として求められます。具体的には、通勤定期に表示されている経路で公共交通機関を利用して通勤する場合や、会社に届け出ている経路でマイカーを利用して通勤する場合を指します。一方、特段の理由もなく迂回経路で通勤したり、飲酒運転したりする場合は、合理的な経路及び方法とは認められません。

(3)業務の性質を有するものでないこと

業務の性質を有するものは、業務災害として労災保険の保護を受けることができるため、通勤災害の範囲から除かれます。

(4)「住居」の要件を満たすこと

労災保険における「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している場所で、本人の就業のための拠点となる所を言います。そのため、単身赴任者が週明けは決まって家族の住む自宅から出勤する場合は、住居と認められる可能性が高いですが、終電に乗り遅れて友人宅に宿泊し、翌朝そこから直接出勤する場合などは、住居とは認められません。また、単身赴任先住所と帰省先住所との間の移動についても、要件を満たせば通勤災害となります。

(5)「就業の場所」の要件を満たすこと

「就業の場所」とは、業務を開始または終了する場所を言います。会社以外でも、取引先から直帰する場合などは、就業の場所と認められます。また、就業の場所から他の就業場所への移動も、要件を満たせば通勤災害となります。

(6)「逸脱」または「中断」に該当しないこと
逸脱とは、通勤途中において就業または通勤と関係のない目的(ショッピング、習い事、飲み会への参加等)で合理的な経路を逸れることを言います。また、中断とは、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行なうこと(コンビニや銀行ATMへの立ち寄り等)を言います。

逸脱と中断

原則として、労働者が移動経路を逸脱、または移動を中断した場合は、その逸脱または中断の間、およびその後の移動は通勤とみなされないため、図表内の○印の箇所で起きた災害のみ通勤災害と認められます。

ただし例外として、逸脱または中断であっても、日常生活上必要な行為をやむを得ない事由(日用品の購入、選挙権の行使、通院等)により最小限度の範囲で行なう場合には、逸脱、中断の間を除き、通常経路に復した後は通勤と認められます。つまり、△印の箇所で起きた災害も通勤災害と認められます。

【よくある質問】


Q.通勤災害と認められる疾病にはどのようなものがあるのでしょうか?
A.通勤による疾病の範囲は、具体的な疾病名は例示されていませんが、労災保険法施行規則により「通勤による負傷に起因する疾病その他通勤に起因することの明らかな疾病」と規定されています。過去の例を挙げると、自動車事故による慢性硬膜下出血、「地下鉄サリン事件」でのサリン中毒、などが通勤に起因する通勤災害として認められています。一方、たまたま通勤途中に発症した持病などは、残念ながら通勤に起因しないと判断される可能性が高いでしょう。

※ 労災保険給付に関する申請書類や労災保険指定医療機関については、下記のURLでダウンロードや検索が可能です。

厚生労働省 労災保険給付関係請求書等ダウンロード
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken06/

厚生労働省 労災保険指定医療機関検索
http://rousai-kensaku.mhlw.go.jp/

著者クレジット

特定社会保険労務士 岩野麻子(いわの・あさこ)
勤務時代から、350社の中小企業に対する労務コンサルティング業務に従事し、企業内人事部では、従業員約3,000人をサポートした経験を持つ。現在は独立開業し、就業規則の作成や助成金の申請等を行なっている。