手を使わなくても着脱可能なシューズを開発
Quikiks (クイッキクス)
更新日:2016年05月26日
障害者、高齢者、妊婦など、屈んで靴の着脱を行うことが困難な人のために、ハンズフリーで着脱可能なシューズを6年かけて開発。昨年暮れから販売を開始した。
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手を使わずに着脱できる靴を開発したスティーブ・カウフマン氏 |
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クイッキクスのラインナップ |
脊柱側彎症の息子のために
多くの人にとって靴の着脱は、歯を磨くのと同様に何でもない日常的な行為だが、障害者、高齢者、妊婦など、屈むことが困難な人にとってはひと仕事で、誰かに手伝ってもらわなければはくことができない場合もある。
ニューヨークでエンジニアやグルメストア、カフェ、ケータリングビジネスの経営などに携わってきたスティーブ・カウフマン氏は、2007年に息子が脊柱側彎症と診断されたのをきっかけに、ハンズフリー(手を使わない)で着脱可能な靴の開発を考えるようになった。息子は今以上に背骨が曲がらないように姿勢を固定すべく、体にトルソを装着しなければならない。このため体を自由に曲げることができなくなり、自分で靴を履くこともできなくなったからだ。
靴の着脱の度に毎回人に頼らなければならないのでは、自立できないばかりか、クオリティ・オブ・ライフも保てない。何かいい方法があるはずだと考えたカウフマン氏は、早速、ボール紙で靴のプロトタイプを作り始めた。以来、いくつものプロトタイプを開発してはテストを繰り返し、昨年暮れ、6年がかりでようやく製造・販売にこぎ着けた。
脱ぐときは、床にかかとをトン
クイッキクスの靴はかかとの部分がうしろに大きく開くように設計されているので、スリッパを履くように簡単に足を入れることができ、足を入れると自動的にかかとが閉じる。また、脱ぐときはかかとを床にトンと軽く打ち付ければ、かかとが開く仕組み。
足を入れてかかとで軽く床を蹴ると、かかとが50%開いて靴が脱ぎやすくなる。
足を入れると自動的にかかとが閉じる。
ハンドフリー・シューズの小売価格は一律249ドル。昨年末から靴の販売を開始し、これまでに50足売れた。小売店やクリニック、医療器具を扱う小売店などにサンプルを置いてもらっているが、今のところ、販売は同社のウェブサイトが中心。
まだ販売数は少ないが、サイトで靴を購入した客からの反響は上々で、「履いてみて気に入った80代の男性からは、2足目の注文がありました。それまで、外出の度に夫に靴を履かせるのは奥さんの役目だったので、『そのつとめから解放してくれてありがとう』と、奥さんにも喜んでいただきました」(カウフマン氏)
だが、障害者や高齢者にとってオンラインでの販売はベストではないので、販路開拓は今後の課題だという。また、資本が十分ではないないため大量生産して一定の在庫を確保することができないので、マスメディアを使って大きく広告を打つこともできない。現在、資金を調達するために投資家を捜している。「資本金を得られれば、年間1万足は売れると思います」(カウフマン氏)
医療保険会社への働きかけ
同氏によると、米国では毎年、65歳以上の高齢者の30%が転倒して怪我をしており、このために支払われる医療費は34ビリオンドル(340億ドル)にものぼるという。靴を履くのが面倒で、はきやすいスリッパやサンダル状の履物などを履いていて、すべってバランスを崩して転倒し、怪我をする事故が多いという。
医療期間や大学の研究チームなどの協力を得て、従来の履きやすいスリッパのようなフットウェアよりもクイッキクスのほうが転倒のリスクが少なく安全であることが証明できれば、保険会社と交渉して、医療器具扱いで、医師の診断書があれば靴の購入費用が払い戻されるようすることも可能だ。そうすれば、販売数は飛躍的に伸びることが期待される。
当初は、自分の息子のような障害を持つ人のために発案したハンドフリー・シューズだが、実はそれ以上に、体の自由が利かない高齢者、前にかがむことが困難な妊婦やアメリカに多い肥満の人たちなど、クイッキクスの潜在需要は多い。こうした潜在的なニーズを考慮すると、「米国内だけで5000万人、全世界では2億5000万人の市場が見込めます。家に上がるときに靴を脱がなければならない日本では、さらにニーズがあるのでは」」(カウフマン氏)
会社概要 |
会社名 Hands-Free, LLC |
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