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NHKのディレクターから小舟の船長に転身
御舟かもめ オーナー・船長 中野弘巳(なかの・ひろみ)

更新日:2011年12月28日

 喧噪が渦巻く都会の街も水の上から眺めると違って見える。小さな船でゆったり水辺を回り、いつもと違う大阪を発見してもらいたい。そんな思いに突き動かされ、NHKを辞め、小型クルーズ船の船長になった中野弘巳氏。水に浮かぶ小さな家、「御舟かもめ」で、水辺を気軽に楽しむライフスタイルを提案する。
 


 
 
 中野弘巳さん
「心地よく過ごせる場所の選択肢として“小舟”を提供したい」と語る中野弘巳さん
 
 
「御舟かもめ」のホームページ
「御舟かもめ」のホームページ。クルーズコースの紹介のほか、予約も受け付けている
 
 
桜の季節
桜の季節には、年間利用者の3分の1が集中するという。「川沿いの桜並木を川面から眺めるのは、格別」(中野さん)
 

昼寝もできる小さなクルーズ船

――大阪の河川でクルーズのサービスをされておられるそうですね。
   「御舟かもめ」は、“川に浮かぶ小さな家”をモチーフにした定員10名の小さな船で、大川や淀川など、大阪の川を巡るサービスを行なっています。お客さんの希望に沿って運航する「貸し切り」のほか、船の上で朝ごはんを食べる「朝ご飯クルーズ」や水門や工場など、土木建築物を川から眺める「ドボククルーズ」、デッキに寝ころんでのんびり周囲の景色を楽しむ「うたたねクルーズ」など、一般的な観光船にはないクルーズを提供しています。

――水を楽しむということで、夏の利用が多いのでしょうか?
   実は、一番人気があるのが桜の季節です。川面から眺める桜並木は、陸から眺めるのとは異なる風情があり、この時期に、年間利用者の3分の1が集中しています。このほか、冬に町のイルミネーションを眺めるクルーズも人気があります。こちらは、デッキにこたつをしつらえて、そこから町の夜景を楽しむというアットホームなクルーズです。

――どんな人の利用が多いのですか? また、年間の利用者数はどれくらいですか?
   女性が多いですね。20代後半から30代の女性が中心で、リピートのお客さんも多く、中には、“7回乗った”というお客さんもあります。利用者の数は、時期によりまちまちですが、年間でだいたい2000人くらい、月ベースでは、100〜150人くらいになります。

――業績はどうですか?
   2009年8月に事業を始めたのですが、反響や問い合わせは年々増えており、利用者数も、徐々にですが、増えてきています。さすがに3月の震災直後は減りましたが、それでも、現在(7月)は、客足も戻りつつあります。

当事者にならなければ、本当にやりたいことはできない

――「御舟かもめ」を始められる以前は、NHKのディレクターをされていたそうですね。なぜ、この仕事を始められたのですか?
   結婚する前、妻は、大阪の川沿いの地域を活性化するNPOの活動を行なっており、水上タクシーのサービスも行なっていました。彼女が運転する水上タクシーでよくデートしたのですが、そこで水辺の気持ちよさを実感しました。それまでは、“大阪のような都会には、自然がないだろう”と考えていたのですが、川に出てみると、いろんな自然が残っていて、街中にいるときとは違う大阪の姿を知ることができ、とても感動しました。

   やがて結婚し、妻が産休に入るため、水上タクシーの仕事も休むことになったとき、“このままこうしたサービスをなくしてしまうのは、もったいない”と思ったのがきっかけです。

――それにしても、NHKのディレクターという人もうらやむ職業を辞め、クルーズ船の船長になるとは、驚くべき転身ですね。
   仕事を続けるうちに、ジレンマを感じるようになったのです。メディアというのは、たとえば、何かに取り組んでいる人を採り上げて番組にしたとしても、応援者でしかありません。本当に自分のやりたいことをやろうと思えば、当事者にならないといけないと思うようになったのです。

   一人でも多くの人に、大阪の水辺の気持ちよさを伝えたいと思うなら、自分がその仕事をやった方がいいのではないか、そう思い悩んでいるときに、「やらないで悩むなら、やってみたら?」と妻に言われ、決心したのです。

お客の自由な発想で楽しめる船を目指す

――起業の資金はどのように調達されたのですか?
   自己資金と国民金融公庫からの融資で600万円ほどを用意しました。真珠の養殖に使っていた船を買い取って改装したので、資金のほとんどをその費用に充てました。初期投資の回収は5年を見込んでいます。

――事広告宣伝は、どうされているのですか?
   たとえば、10人いたら10人全員に満足してもらえるのは、簡単ではありません。ですから、すべての人をターゲットにするのではなく、こちらのスタンスに共感してもらえそうな人をターゲットにしたサービスを心がけています。したがって広告宣伝も、マスにアピールするのではなく、「御舟かもめ」のテイストを共有できるような人たちに直接伝わるような方法を意識しています。具体的には、共感してもらえる人たちが集まりそうなお店にチラシを置いてもらうなどの方法をとっています。

――事業を運営するうえで、どんなことを意識しておられますか?
   クルーズのモデルコースはありますが、基本的には、お客さんが、好きなように船を使って楽しんでもらえることを心がけています。たとえば、船の上で誕生会を開いたり、結婚記念日を祝ったりなど、「船を使ってこんなことをしたい!」というお客さんの希望をかなえるお手伝いをすることを意識しています。

喫茶店に行く感覚で船を使う文化を育みたい

――起業してよかったと思う時はどんなときですか?
   基本的には、お客さんに自由に船を楽しんでもらいたいので、押しつけがましくならないよう、ガイドもできるだけ抑えています。それでも、自分がいいなと思ったことをお客さんも同じようにいいなと感じてくれたときは、本当にうれしいですね。

――逆に大変なことはありますか?

   係留場所の確保が難しいですね。自宅は川沿いにあるのですが、係留地が遠く、そこまで行き来するだけで、時間がかかってしまいます。河川法は一部改正されましたが、まだまだいろんな船が共存できるような環境にはなっていないと思います。もう少しいろんな船が共存できるような環境になってほしいですね。

――この事業を始めて、自分のなかで変わったことはありますか?
   自然を身近に感じるようになりましたね。船を操縦するので、潮の満ち引きを意識するようになったのはもちろんなのですが、それだけでなく、風の流れ、雲の流れなど、それまで気にとめてなかった小さな自然の変化にも敏感になりました。

   それから、“生きる”ということに対する意識も変わってきました。組織の一員として仕事をしていたサラリーマン時代とは異なり、今は、すべて自分で考え、判断していかないといけません。大変なことですけど、それだけに、“生きている”という実感がしますね。

――今後、どのようにこの事業を展開される計画ですか?
   事業を始める前に、オランダやイギリスを旅して回りました。こうした国では、船は、普段の暮らしの中に溶け込んでいました。一方、日本はというと、忘年会で屋形船に乗るという具合に、船は、何か特別なものという認識が強いですね。ですから、日本でも、喫茶店に行くように、あるいは、公園のベンチに寝転がるように、もっと気軽に船を利用してもらえるようにしたい。そのためには、いろんな船と連携したり、旅の企画を巻きこんだりしながら、船を使ってもらう機会を増やしていく計画です。

プロフィール&事業概要

御舟かもめ オーナー・船長 中野弘巳(なかの・ひろみ)
1977年生まれ。三重県出身。大阪大学大学院工学研究科(都市環境デザイン)修了後、03年NHK入局。退職し、09年8月、「御舟かもめ」を開業。

屋号:御舟かもめ
開業:2009年8月
事務所:〒534-0026大阪市都島区綱島町1-10-405
電話&FAX:06-6881-2877
URL:http://ofune-camome.net