経営者の味方「0円ビジネスマッチング WizBiz(ウィズビズ)」

WizBiz:HOME >  ビジネスマガジン >  ビジネスコラム >  莫邦富的視点・21世紀の大国中国を見つめる  >  私が見た上海万博の高級料亭「紫」の支配人  詳細


私が見た上海万博の高級料亭「紫」の支配人
莫邦富的視点〜21世紀の大国・中国を見つめる〜

更新日:2011年12月07日

日本のメディアや地方自治体または一部の企業が好んで使う中国の「富裕層」。しかし、莫邦富氏はこの言葉を一度も使用したことがない。なぜかというと、中国の幻の「富裕層」を狙ったビジネスがことごとく失敗しているのを知っているからだそうだ。


 
莫邦富氏
 
 
著者新刊
莫邦富が案内する中国最新市場 22の地方都市
莫邦富が案内する
中国最新市場
22の地方都市

莫邦富著(海竜社刊)
価格¥1500
見た!聞いた!歩いた!徹底的な現地取材で得た「明日の星」22都市の市場魅力
 
日中「アジア・トップ」への条件
日中「アジア・トップ」への条件
謙虚になれ中国、
寛容になれ日本

 
莫邦富著(朝日新書
)
価格777円(税込)

朝日新聞土曜「be」の好評連載「mo@china」の内容を凝縮
 
バックナンバー一覧
 

幻の中国人「富裕層」

私のコラムの愛読者なら気付いてくださるのではないかと思うが、中国経済や消費市場としての中国の可能性をこれだけ語っている私が、これまで日本のメディアや地方自治体または一部の企業が好んで使う「富裕層」という言葉を口にしていない。中国では確かに金持ちになった人が増えている。なかにはとびきりの金持ちもいる。しかし、それが消費者の層として果たして中国人の消費行動にどれほどの影響力をもっているのか、または中国人の消費生活をリードしているのか、という点に対して、私は一貫して懐疑的な視線を投げている。

なので、2010年上海万博開催時に、万博の会場内に開設された日本の高級レストラン「紫 MURASAKI」が一人前の懐石料理を3000元、当時の為替レートで約4万5000円もの値段で売り出していると聞いたときには密かに嘆いた。このような持続的可能性のないビジネスをやる物好きがよくいるものだ、と。

上海万博は数回訪れたが、そのレストランをチェックしようとは思わなかった。後に関係者から声を掛けられても訪れてみようとしなかった。なぜかというと、中国の幻の「富裕層」を狙ったビジネスがことごとく失敗しているのを知っているからだ。

携帯電話しかり、メディカル・ツーリズムしかり、成功した試しはない。上海万博が終了してすでに1年以上経っているが、金持ちが密集すると日本人が想像する上海に、「紫」のような値段設定の高級懐石料理店は現われてこない。日本人がターゲットとして狙っていたその「富裕層」は日本人ビジネスマンの前には姿を現わしてくれないのだ。

その意味では、私の読みは外れていないと思う。

腰の低さで中国ビジネスに勝つ

レストラン「紫」の訪問を誘われても応じようしなかった私だが、その支配人を務めていた柿澤一さんには次第に興味を覚え、お茶を飲んだり食事をしたりする間柄となった。

造りこまれた5つの個室、完全予約制、京都の星付き料亭から招聘された料理人、約3000人もの来客、延べ1200媒体による記事紹介、それに約4万5000円もの一人前の価格設定……。

ビジネスモデルとしての持続的可能性はなかったものの、スポンサーのキッコーマン株式会社の太っ腹と広告作戦の鮮やかさが印象に残った。もうひとつ、その店を運営する支配人柿澤さんもなかなか面白いと思うようになった。1967年生まれだが、童顔のせいか30代半ばにも見え、キッコーマンさんもこんな若い人に上海万博店の支配人という大役を任せるなんてすごい、と思ってしまったこともあった。

あとで調べてみたら、関西料亭つる家で修行した後、アメリカ・ワシントンに渡り、日本大使館総料理長として働いていた経験も持っているのを知って、密かに驚いた。米国での生活経験があると、少しの実績でも10倍以上に膨らませて吹聴するタイプの人間が多いなか、柿澤さんからは腰が低いという印象を得ている。

考えてみれば、中国ビジネスのド素人がレストラン「紫」をやってこられたのも、その腰の低さではないかと思う。レストラン「紫」の運営に関する柿澤さんの経験談で、「中国人に手を合わせてお願いしたら、断わられたことは一度もなかった」という言葉を何度か聞き、それが妙に心に残っている。ド素人だからの真剣勝負というやる気が彼に十分にあっただろう。そこにさらに腰の低さが加わって、大抵の中国人が柿澤さんの前で折れてしまったのではないかと思った。

考えてみれば、レストラン「紫」にまったく興味も関心も示さなかった私が、柿澤さんと付き合うようになったのも、彼のその人柄に知らず知らずのうちに惹かれたからだろう。

その柿澤さんが最近、料理以外の分野にも挑戦し始めた。出版された彼の処女作『中国情陸』(メディア総合研究所)にその野心をしたためている。一読してみてはいかがだろうか。

著者プロフィール

莫 邦富(Mo Bang-Fu)

1953年中国・上海生まれ。上海外国語大学卒業後、同大学講師を経て、85年に来日。知日派ジャーナリストとして、政治経済から文化にいたるまで幅広い分野で発言を続け、「新華僑」や「蛇頭(スネークヘッド)」といった新語を日本に定着させた。
『蛇頭』『中国全省を読む地図』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーとなり、話題作には『日本企業がなぜ中国に敗れるのか』『これは私が愛した日本なのか』『新華僑』などがある。
現 在、三井住友銀行グループ・SMBCコンサルティング会報誌の中国ビジネスクラブにて「データから見えてくる、これからの中国マーケット」、ダイヤモン ド・オンラインにて「莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見」、時事通信社の時事速報にて「莫邦富の『以心伝心』講座」などのコラムを好評連載中。
博報堂スーパバイザ。SMBCコンサルティング顧問。三菱UFJ信託銀行業務顧問。山梨県観光懇話会委員。石川県中国インバウンド研究会顧問。大妻女子大学特任教授。
http://www.mo-office.jp/