中国は世界初のキャッシュレス社会となる?
莫邦富的視点〜21世紀の大国・中国を見つめる〜
更新日:2017年04月21日
中国の片田舎を訪れた時、数人の男女がエレベーターに乗り込んできた。すると、女性のひとりが二つ折りのガラケーを取り出した……。
ガラケーと日本人の関係
昨年、山東省北海というところを訪れたときの出来事だった。日本人があまりいない地域なので、日本企業の誘致が難しい課題となっていた。こうした難題をどのように乗り越えてより多くの日本人や日本企業に来てもらえるのか、という相談を地方の行政から持ち掛けられたのだ。
夜、食事を終えて疲れた体を引きずりながらホテルに戻り、エレベーターに乗ろうとしたとき、30代の男女一群もなだれ込むかのようにエレベーターに乗り込んんできた。身なりから見れば、出張でこの都市にやってきたどこかの企業の社員らしい。別に目を惹くところもないので、私もこれらの男女に大して関心を払わなかった。
エレベーターが動き出すと、私の前に立っていた女性が携帯電話を取り出し、SNSのメッセージをチェックし始めた。その携帯電話を開く仕草を見て、「日本人だ!」と気づき、私は大いに驚いた。隣にいる私と一緒に行動していた仲間たちに目をやり、彼らが日本人だという無言のメッセージを送った。仲間たちも同様にびっくりした。まさかこんなド田舎に日本人が来ていたとは思わなかったからだ。
案の定、彼らがエレベーターを降りるとき、みんな彼らの仲間たちに「お休み」などと日本語のあいさつをした。日本人であることが証明された。
ホテルの部屋に集まってくれたこちらの仲間たちに、「あのガラケーを目の当たりにした瞬間、日本人だと驚いたよ」と感想を述べたら、「俺も」「私も」と仲間たちも同様の感想を口にした。
そこで私は逆にもう一つの事実に気付いた。つまりガラケーイコール日本人になっているのだ。
電子支払い社会の構築に没頭している中国
言うまでもなく、ガラケーは「ガラパゴス・ケータイ」の略だ。世界のモバイル・IT事情とは別に、日本独自の進化を遂げた日本製の携帯電話を、他の島との接触が無かったために独自の進化を遂げたガラパゴス諸島の生物となぞらえた用語である。
従来の2つ折りケータイはガラケーの目立つ特徴となっていると言ってもいいようだ。
しかし、昨年から関連企業が相次いでガラケーの生産中止、販売終了を相次いで宣言している。NECのように携帯電話事業そのものから撤退してしまった企業も現れている。携帯電話事業やパソコン事業における日本企業ないし、日本社会の時代遅れが企業経営の致命傷になっていると認識すべきだ。
その意味では、IT技術、モバイル通信、携帯電話などの端末への中国のこだわり、運用とその発展ぶりに対する日本社会全体の認識は極度に不足している。2016年12月、このコラムに発表した拙稿「電子支払いが都会の隅っこまで浸透し始めた中国」はまさにこうした日中間のギャップを描いたものだと思う。
オーストラリアで発刊されている、ビジネスと金融を主に取り上げる全国紙のオーストラリアン・ファイナンシャル・レヴュー(The Australian Financial Review)は4月19日、中国は世界でいちばん最初のキャッシュレスの国になるだろうという金融専門家の発言を報じた。
2017年1月27日、アリババのJack Ma(馬雲)氏が持つフィンテック企業アント・フィナンシャル(Ant Financial、螞蟻金融)はアメリカ拠点の送金サービス大手マネーグラム(Money Gram)を約8億8,000万ドルで買収した。これは上場しているアメリカ企業を初めて買収することとなった。
競争相手の挑発に反撃するため、4月17日、アントはマネーグラムに対する買収価格をさらに36%アップした。その買収が成立するかどうかは、まだアメリカ政府の判断を見ないとわからないところがあるが、電子支払いなどの分野における中国企業の存在は、それに対する日本社会の認識を遥かに上回っている実例となっている。
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