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森永卓郎の経済探偵録
個人消費の低迷は続く!

更新日:2008年04月03日

春闘低調、物価上昇、貯蓄率低下・・・
森永氏は、景気は明らかに危険水域に突入し、今年も消費の低迷は続くと説く。
 


 
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総理大臣が公式に賃上げを要求した異例中の異例の事態

大手企業の08年春闘が終わった、3月12日に電機、自動車大手に示された回答は、惨憺たるものだった。30歳基幹労働者の個別ポイントによる統一要求を掲げた電機各社では、東芝、NEC、富士通、松下電器、シャープなどで1000円、自動車業界ではトヨタが1000円など、多くの企業の賃上げが昨年並みに終わったのだ。

昨年並みで、なぜいけないのかと思われるかもしれない。しかし、今年の春闘に大きな期待がかけられていた。にもかかわらず、それが達成できなかったのだ。

春闘への期待が高かったのには、理由がある。日本経団連の御手洗会長は、昨年末まで、賃上げを容認する発言をしていたのだ。また福田総理も、3月6日の福田内閣メールマガジンで「今こそ改革の果実が給与として国民、家計に還元されるときだ」として、賃上げへの期待を表明したし、同時に、官邸に日本経団連の御手洗冨士夫会長を呼んで、春闘で賃上げに経営者が努力するよう要請した。

総理大臣が経済団体首脳に賃上げを要請するというのは、通常ありえないことだ。なぜなら、賃金決定というのは、本来労使が決めるもので、政府に介入する筋合いはないからだ。おそらく、戦後政府が賃金決定に介入したのは、第二次石油危機の後に、インフレを抑制するために政府が労働組合に対して賃上げの抑制を要請したことくらいだろう。しかも、それは公式のものではなく、水面下で阿吽の呼吸に近いかたちで行なわれたものだった。だから、総理大臣が公式に賃上げを要求するというのは、異例中の異例の事態なのだ。

福田総理が、なぜそこまでして、賃上げを望んだのか。それは景気が失速寸前になっているからだ。内閣府が発表した1月の景気動向指数(一致指数)は22.2%と、景気判断の基準となる50%を大幅に割り込んだ。これだけ状況が悪化してくると、さすがに「景気は緩やかながら拡大」などとはいっていられない。内閣府は景気の基調判断を「一進一退で推移している」に下方修正した。日銀も3月の金融経済月報で、「わが国の景気は減速している」と、景況判断の下方修正に動いている。

年収200万円未満の給与所得者が21年ぶりに1000万人超

景気は明らかに危険水域に突入している。本来なら強力な景気対策をとらなければならないが、小泉内閣以降の財政再建最優先路線のなかで、財政出動を行なうことは、ほとんどできない。暫定税率の廃止でさえ認めない内閣が、景気対策の減税などできるはずがないのだ。さらに、公共事業のカットを続ける政府に、公共事業の積み増しは、もっとできるはずがない。

一方、政府が財政再建原理主義なら、日銀は金利正常化原理主義だから、利下げや資金供給増などの金融緩和策は一切とらない。つまり、景気が悪化しても、財政政策も金融政策もとれないというのが、いまの日本の実情なのだ。そのなかで、唯一可能な景気対策が賃上げだ。賃金を上げて、消費を増やしてもらえば、景気失速を免れることができる。しかも、その考えは無理筋ではなかった。

小泉内閣の発足後、2001年から2004年までの4年間は、労働者に支払われた総賃金である「雇用者報酬」は減り続けた。そしてようやく景気回復の恩恵が労働者にもたらされたのが2005年だった。2005年の名目GDP増加額3兆4060億円に対して、雇用者報酬の増加額は2兆1103億円だったから、成長の成果の62.0%が労働者に分配されたことになる。

2006年は7兆1907億円のGDP増のうち58.1%が労働者に分配された。ところが2007年は、6兆8074億円の名目GDP増加額に対して、雇用者報酬の増加額は6143億円と、わずか9.0%しか労働者に分配されていないのだ。これでは、消費が増えるはずがない。

実際、昨年の国内新車販売台数は、前年比6.7%減の535万台にとどまっている。販売台数のピークだった1990年の777万台と比べると31%もの減少だ。メディアは、「消費者のクルマ離れ」だと指摘したが、そうではない。2004年の「全国消費実態調査」によると、年収400万円台前半世帯の自動車普及率は78%、年収300万円台前半でも66%となっている。車はいまや必需品なのだ。

しかし、いくら生活必需品といっても、あまりに低所得になると車を買えない。年収200万円未満の世帯の自動車普及率は、35%に過ぎないのだ。昨年国税庁が発表した「民間給与の実態」によると、年収200万円未満の給与所得者が1023万人と、21年ぶりに1000万人の大台に乗せた。こうした低所得層の拡大が、車の販売不振に結びついているのだ。

これ以上貯蓄を削って消費を拡大することはできない

そうはいっても、これまで家計は節約を続けてきたのだから、そろそろ「節約疲れ」が出て、消費が拡大するのではないかという見方もある。しかし、私はそれも期待薄なのではないかと考えている。日本の家計貯蓄率が急速に下落しているからだ。

2006年度の国民経済計算によると、2006年度の家計貯蓄率は3.2%と、前年度を0.3%ポイント下回って、現行基準で比較できる1996年度以来最低を記録した。 97年度の貯蓄率は11.4%だったから、9年で3分の1以下に低下したことになる。高齢化の影響もあるだろうが、高齢化がこんなに急速に進んでいるわけではないから、貯蓄率の低下の大部分の原因は、所得水準の低下だ。

消費者はこれまで貯蓄を削りに削って消費を続けてきた。その結果、貯蓄率3%というところまで落ち込んでしまったのだから、これ以上貯蓄を削って消費を拡大することは、もはやできないのだ。

しかも、今年度の消費にはさらなるマイナス要因が重なる。物価の上昇だ。1月の消費者物価(生鮮食料品を除く)上昇率は、12月に引き続き前年同月比で0.8%となった。昨年10月に0.1%のプラスに転じて以来、11月が0.4%、12月が0.8%と上昇率は高まる傾向にある。しかも、4月には牛乳、電気・ガスの値上げが控えているほか、小麦の政府売り渡し価格の30%引き上げも待っている。物価上昇は、さらに加速していくだろう。 そうなれば、実質賃金の低下で消費はさらに低迷していく。

結局、今年消費が拡大するためには、景気対策のための大型減税が行なわれることくらいしか可能性がない。しかし、そうした思い切った政策を暫定税率も廃止できない福田内閣がするはずがない。結局、残念ながら、今年も消費の低迷が続くのではないだろうか。

プロフィール

三菱UFJリサーチ&コンサルティング客員研究員/獨協大学経済学部教授 森永卓郎