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森永卓郎の経済探偵録
電子配信が変えるライフスタイル

更新日:2010年04月06日

アメリカ・アマゾンでは、2009年の暮れごろ、電子書籍の売り上げが従来の紙の本をうわまった。数年の内に日本でも同じ現象が起こるであろう。今回、森永氏は、書籍、音楽などの電子配信の普及が、ライフスタイル、ビジネスモデルにどのような影響を及ぼすのか分析している。
 


 
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iPadの使い道

アップル社が発表したiPadの評価が分かれている。画期的な商品だとする評価がある一方で、思ったほどの新機能はなかったとか、単にiPhoneを大きくしただけという意見まである。しかし、私は、iPadを含む新しい携帯端末への電子配信というビジネスモデルが、消費者のライフスタイルを大きく変えてしまうほどのインパクトを持つだろうと考えている。

iPhoneに代表されるスマートフォンが、いかに便利かは、携帯電話市場で、いきなり大きなシェアを獲得したことからも明らかだ。ただ、スマートフォンには、決定的な難点が2つある.ひとつは、画面が小さくて中高年には、使いやすいとはとても言えないことだ。だから、単に画面を大きくしただけでも、大きな意味がある。大型画面を搭載したニンテンドーDSi LLがヒットしたのも、中高年が歓迎したからだ。

スマートフォンのもうひとつの問題は、遊びに使うのはよいのだが、ビジネスユースには、必ずしも使いやすいとは言えないことだ。その点、iPadに標準搭載されているアプリケーションは、大画面を十分活かせるように新たに設計されており、メールやスケジュール管理、書籍の閲覧などができるだけでなく、ソフトウエアキーボードを活かして、ビジネスユースにも十分対応できる設計になっている。iPad1台抱えていれば、ひと通りの仕事ができてしまうのだ。

ただ、iPadが変えるのは、単に一台でビジネスも含めてひと通りの用が足りてしまうということだけではない。例えば、電子書籍の機能を例に考えてみよう。

ビジネスモデルの構造変化

アメリカでは、すでにアマゾンが提供する「キンドル」という電子書籍端末が高い評価を受けていて、書籍市場で電子書籍化への流れが一気に加速している。キンドルは、eインクという表示技術を使っている、これは、画面のなかに電子のインクが文字の形に固まるもので、新しいページを表示するときにはわずかな電力が必要だが、一度表示してしまうと、その後は電圧をかける必要がないので、ほとんど電力を消費しない。また、バックライトも不要で、実際に紙に印刷した状態に近いので、直射日光の下でも、とても読みやすい。

しかし、電子書籍が爆発的に普及を始めたより本質的な理由は、通常の書籍よりも大きなメリットがあるからだ。まず消費者には、(1)本の置き場所がいらない、(2)紙の書籍を買うより2〜3割安く買える、(3)千冊以上の本を端末のなかに貯め込んで持ち歩くことができる、(4)過去に読んだ本をすぐに探し出して、もう一度読むことができる、という大きなメリットがある。

一方、本の著者は、最大で書籍代の7割程度の印税を受け取ることができる。(これまでの書籍は1割程度)、さらに出版社にも大きなメリットがある。本を印刷しても売れなかった場合、出版社は印刷代を損するだけではなく、売れ残った本を保管しておく倉庫代を払い続けていかなければならない。

しかし、電子書籍であれば、印刷製本のコストがないうえに、保管費用の問題もないから、部数の少ない本が出しやすくなるのだ。だから、売れるかどうか分からないマニアックな本も、気軽に出版することができる。実は、私も以前、女性向けの恋愛テクニックの解説本を出したことがあるのだが、紙ベースではあまり売れなかったこの本が、電子書籍にしたらそこそこ売れた。

こうした変化は、メディア業界の地図を塗り替えていくだろう。電子配信というビジネスモデルの構造変化が、ゲームや音楽、新聞、雑誌などの分野でもまったく同じように起きているからだ。電子配信によって、情報の作り手から、情報の消費者に向けて、直接に近い形での流通が行われるようになる。

例えば、ゲームについて言えば、つい最近までは、ゲームメーカーがソフトウエアのCDやDVDのディスクの入ったパッケージを作り、家電量販店や玩具店で販売するのが普通だった。ところが今は、消費者がネットからダウンロードするだけで、すぐにゲームを楽しめるようになっている。

情報の流通スタイルが変わるときには、情報の流通企業はビジネスモデルを大きく変えていかざるを得なくなる。しかも、ネット上の情報は、有料と無料が紙一重だ。ゲームも音楽も新聞も雑誌も、ネットの世界では無料のものがあふれている。そうしたなかで、収益を獲得する仕掛けをいかに構築していけるのかが、情報流通企業が今後生き残っていけるかどうかのカギを握ることになるだろう。

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎