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森永卓郎の経済探偵録
ガラパゴスでもいいじゃないか

更新日:2010年03月10日

 キリンホールディングスとサントリーの経営統合が見送られた。そのニュースを耳にして、森永氏は密かに胸をなで下ろしていたという。
 


 
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キリンとサントリーの企業文化の違い

経営統合に向けて交渉を進めてきたキリンホールディングスとサントリーが、統合を断念したと、双方が発表した。報道では、統合比率をめぐっての交渉が折り合わなかったとされる。サントリーが非上場であるために、統合比率の算定が難しかったという事情はあるにせよ、交渉決裂の背景には、キリンとサントリーの深刻な文化の対立があったのだと私は考えている。

もし、サントリーに対して高い統合比率を与えてしまうと、サントリーの多くの株式を保有する創業家に、新会社の経営を牛耳られてしまう。それは株主なのだから当然だという見方もあるだろうが、キリンとサントリーの企業文化は大きく違うから、それは難しいのだ。

三菱グループの中堅企業として、キリンは真面目で、石橋を叩いてから渡るような社風を持っている。対してサントリーは、かつて開高健や山口瞳が在籍したほど、自由闊達な社風だ。もし、サントリー側に経営の主導権を握られてしまったら、キリンの社員は、仕事のやり方の根本から変えなくてはならなくなるのだ。

実は、私はかつてUFJ総合研究所(旧三和総合研究所)という会社に勤務していた。入社したときは、三和銀行系のシンクタンクだった。社風は体育会系で、成果さえきちんとあげていれば、細かいことは言われなかった。ところが、三和銀行が三菱東京銀行に事実上吸収合併され、子会社にも三菱流の管理が導入された。細かいことまで含めていちいち上司に報告し、承認を得ることが必要になって、私は会社に居続けることができなくなった。

もちろん、会社の管理運営という意味では、三菱方式のほうが正しいのかもしれないし、まして三菱のやり方に問題があるわけでは決してない。どちらがよいのかというのは、働く人の性格によって異なるのだ。ただ、重要なことは、一つの企業で複数の文化が併存することは難しいし、実際、併存している事例を私はみたことがないということだ。

つまり、経営統合をすると、弱いほうの文化が破壊されてしまうのだ。私は、キリンの製品も好きだし、サントリーの製品も好きだ。だから、経営統合して、どちらかの文化が消え去ることを非常に危惧していた。だから統合が破談になったとき、私は密かに胸をなで下ろしていた。

企業文化を守るという選択肢

最近、私がもう一つ胸をなでおろした提携解消がある。デルタ航空と提携すると見られていた日本航空だ。もともと日本航空はアメリカン航空が所属する“ワンワールド”というグループに属していた。しかしデルタ航空からのからのラブコールを受けて、デルタ航空が所属する“スカイチーム”に移籍する可能性が高いと報道された。結局、デルタ航空、アメリカン航空、それぞれのプレゼンの結果、日本航空はアメリカン航空の“ワンワールド”に残ることになった。

航空会社が世界規模で組んでいるアライアンスのなかで、ワンワールドは一番縛りが緩い。例えば、ワンワールドは加盟会社以外と共同運航便を飛ばせるが、スカイチームではそうしたことは許されない。だから、ワンワールドにとどまることで、日本航空は独自性を発揮することができるのだ。

もちろん、そうした考え方には批判がある。グローバル化する企業競争のなかで、規模拡大を追求しなければ、生き残っていけないとする見方だ。確かに、いま世界はそのような動きを見せている。かつては、内外価格差と呼ばれる問題が我が国で大きく採り上げられていた。海外に比べて日本の物価が高すぎることが問題視されたのだ。しかし、いまでは内外価格差は、ほとんどなくなった。

イギリスの『エコノミスト』という雑誌が、ビッグマック指数というものを発表している。各国で売られているビッグマックの価格を基準に為替レートを計算したものだが、最近の特徴は、ビッグマック指数と実際の為替レートが近づいてきているということだ。つまり、ビッグマックの内外価格差がなくなってきているのだ。

それは、ある意味で当然のことだ。マクドナルドはコストを下げるために世界規模でみて、一番安いところから大量調達をする。人件費の水準は、先進国ではさほど違わないから、自ずとビッグマックの値段も一緒になるのだ。同じように、ウォールマートは、世界規模で大量調達をして、日本の西友も含めた世界の販売拠点で安い値段で売っている。

こうしたビジネスモデルに対抗していかなければ、企業の成長は難しくなってきている。そうしたなかで、世界戦略を採れない企業は、「ガラパゴス化」といって、進化を止めたガラパゴスの動物のように古い企業になってしまうというのだ。

私はその議論を否定しないが、ガラパゴスゾウガメやガラパゴスペンギンやガラパゴスイグアナになる企業があってもよいと思う。ローカル経営で文化を守るか、グローバル経営で成長を追い求めるのか。いま企業はどちらの道を行くのか、選択を迫られているのだ。

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎