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「利上げで景気回復」は幻のシナリオか

更新日:2007年03月22日

日本銀行が実施した短期金利の引き上げによって、家計が多くの利子所得を得て、企業は支払い利息を吸収して、景気回復を促すという想定があった。しかし、利上げが景気の足を引っ張るというマイナス影響がみられた。利上げが景気回復を促すという想定を検証してみよう!
 


 
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利上げは株価の下落要因になった

2月21日に日本銀行が実施した2度目の短期金利引き上げは、当初景気を拡大する効果をもつとみる向きもあった。そもそも現在の金利があまりにも低い水準になりすぎていて、金利の引き上げが家計の利息収入を増やす一方で、利益の上がっている企業にとっては、十分に吸収可能な利上げ幅だと思われていたからだ。

しかし、そうした甘い期待を打ち砕いたのが2月27日に上海の株価暴落を起点として世界に広がった同時株安だった。東京市場では日経平均株価が1週間(5営業日)で8.6%、1573円も下落した。もちろん東京だけでなく、世界の株価が同時に下がったのだが、同じ期間のニューヨーク市場の下落率が4.6%と東京の半分程度だったことを考えると、やはり日銀の利上げの影響は否定できないだろう。

また、為替市場では円の対ドル為替レートが1ドル115円台にまで急騰した。これも利上げが原因だ。つまり、利上げが景気の足を引っぱったことを株価や為替が示しているのだ。メカニズムはこうだ。金利が上がると、企業の金利負担が増えるだけでなく、設備投資などの需要が抑制されて、企業の売り上げが減少する。それは、株価の下落要因になる。

一方、円の金利が上がることで、円での資金運用が有利になるため、為替市場で円を買う動きが強まり円高になる。実際、利上げ実施以降、金利の低い日本で資金を調達して、金利の高いアメリカで運用する「円キャリートレード」が、急速に縮小、あるいは逆流した。そして円高になれば、輸出企業の売り上げが減り、これも株価下落要因になる。

日銀が利上げして1週間は、株式市場への影響はほとんどなかった。しかし、短期間は思惑で株価が動いても、少し長い目でみれば、本来の経済メカニズムが働くのだ。しかも、今回の利上げでは、家計が多くの利子所得を得て、企業は支払い利息を吸収できるという想定自体が、正しくなかった。

利上げは家計にどれだけのメリットをもたらすか

まず企業部門を考えよう。確かに大企業は利益を5年連続で拡大して、莫大な利益を上げているが、大企業は金利引き上げの影響をあまり受けない。実質無借金のところが多いし、何より直接金融で資金調達が可能だから、銀行借入に頼る必要性が小さいからだ。金利引き上げの影響を受けるのは中小企業だ。中小企業はまだ景気拡大の恩恵に浴しておらず、経営が厳しいから、0.25%ポイントの利上げでも、大きく経営を圧迫される。また、資金調達を銀行に頼らざるを得ないから、利上げの影響をもろに被ってしまう。

今回の利上げで短期プライムレート(企業向け最優遇貸出金利)は、0.25%引き上げられたから、中小企業向け融資の金利も、ほぼ同じ幅で引き上げられる。つまり、中小企業は0.25%引き上げられた短期金利引の影響を、借入金利の引き上げという形で100%受けることになるのだ。

一方、金利引き上げのメリットを受ける家計のほうはどうか。大手銀行は2月26日から普通預金と定期預金の金利を引き上げた。たとえば1年物の定期預金金利は、それまでの0.25%から0.1%ポイント引き上げられて0.35%となった。日銀は短期金利を0.25%ポイント引き上げた。しかし定期預金金利は0.1%ポイントしか上がっていない。

一方、変動金利の住宅ローンは、短期プライムレート+1%で決まっているから、ローン金利は0.25%引き上げられる。日銀の短期金利引き上げ幅の100%をローン利用者は支払わなければならないのだ。したがって利上げ効果は家計には還元されず、利上げによる景気回復は期待できないといえるだろう。

プロフィール

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 客員研究員
獨協大学特任教授
森永卓郎