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ホワイトカラー・エグゼンプション導入の真相

更新日:2007年01月25日

与党からも反対意見が出された自律的労働時間制度、いわゆるホワイトカラー・エグゼンプション。厚生労働省は次期通常国会に法案を提出する方針だが、そもそも制度導入の真相はどこにあるのだろうか。長年、裁量労働制のもとでシンクタンク研究員として勤務してきた森永氏が解明する。
 


 
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筆者の勤務先で仕事を自律できるのは年収1000万円超クラス

厚生労働省は、通常国会に提出する新しい労働基準法改正案のなかに、自律的労働時間制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)を導入する方向で準備を進めてきた。制度の内容を検討してきた労働政策審議会は、労働側の委員が導入反対を貫くなかで、強引に報告書をまとめて、導入に向けての強行突破を図った。

ホワイトカラー・エグゼンプションというのは、すでに米国で導入されている制度で、仕事の進め方や働く時間を自らコントロールできるホワイトカラーを労働時間管理の対象からはずしてしまおうという制度だ。これまでも存在した裁量労働制でも、労働者が自由に働く時間を決められたが、労働時間管理自体は存在したため、深夜残業などをすると、残業代の支払い義務が雇い主に生じていた。

自律的労働時間制度では、対象の労働者の時間管理をまったくしなくなるため、どんなに残業しても残業代は支払われなくなるし、過労死するほどの長時間労働も止められなくなる。

ホワイトカラー・エグゼンプションの対象として想定される職種は、典型的にはデザイナーやクリエーターのような高度な専門性と自律性をもつ労働者だが、管理職一歩手前のホワイトカラーも対象として想定されているようだ。厚生労働省は、年収や職種、職階、週休2日が確保されることなどの条件で対象となる労働者に歯止めをかける考えだが、詳細は発表されていない。ただ、当初からこの制度の導入に熱心だった日本経団連は「年収400万円以上のホワイトカラー」を対象とするように求めている。

この基準はとんでもないと思う。私は長年シンクタンクの研究員として働いてきた。私の勤めている研究所では、かなり前から研究員に裁量労働制が適用されていて、ある意味でホワイトカラー・エグゼンプションがもっとも有効に働くと考えられる職場だ。

ただ、シンクタンク研究員のなかで、自分で好きなように仕事のやり方を決めて、自由な時間に帰れる人がどのクラスかといえば、主任研究員のなかでも上のほう、プロジェクトリーダークラスだ。その年収は1000万円を超えるというのが、およその相場だろう。年収400万円の労働者に仕事の自律性があるとは考えられない。

実際、経済同友会が昨年11月21日にホワイトカラー・エグゼンプションに対する意見書を発表し、「当面は現行の裁量労働制を活用し、並行して長時間労働などの是正を進めたうえで、改めて労働時間規制の適用除外について議論を深めることが望ましい」と、自律的労働時間制度は時期尚早だと批判した。

対象となるサラリーマンの年収の9.5%が消える勘定

さらに与党のなかでも公明党は早い段階からホワイトカラー・エグゼンプションは慎重に検討するように求めており、今年に入ってからついに自民党内からも反対論が噴き出してきた。このまま強行突破を続けると参議院選挙に悪影響がでることを恐れたのだろう。自民党は参議院選挙前にホワイトカラー・エグゼンプションを導入するための法案提出を見送った。

ただ、今回は見送られても、いずれは導入される可能性は十分にある。ホワイトカラー・エグゼンプションが導入されると何が起こるのだろうか。

ひとつは、残業代のカットだ。労働運動総合研究所の試算では、年収400万円以上を対象としてホワイトカラー・エグゼンプション制度を導入すると、国全体として残業代が4兆5638億円吹き飛ぶとしている。対象となるサラリーマンの年収の9.5%が消えてなくなる勘定だ。ホワイトカラー・エグゼンプションがもたらすもうひとつの影響は、時間管理を企業がしなくなることで、従業員の労働時間が歯止めなく延長され、過労死が続発する可能性だ。

経営側がホワイトカラー・エグゼンプションを導入しようとした目的は、残業代の抑制にあると私は考えている。ここ何年も、大企業が利益を拡大し続けることができた大きな要因は、人件費の抑制に成功したことだ。それは賃金の低いパートタイマーなどの非正社員の比率を拡大することで達成された。

しかし、あまりに非正社員を増やし続けたために、その比率を上げることには、そろそろ限界がみえてきた。だから、ホワイトカラー・エグゼンプションを導入することで、今度は正社員の人件費抑制を目論んだというのが、ホワイトカラー・エグゼンプション導入の真相なのではないだろうか。

日本経団連は、景気拡大のなかでも「一律のベースアップはありえない」と人件費抑制の姿勢を鮮明にしている。どうやら、正社員の給料が上がらないどころか、下がっていく時代がやってきそうだ。

プロフィール

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 客員研究員
獨協大学特任教授
森永卓郎