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安倍政権「再チャレンジ推進」で地方経済はどう変わる!?

更新日:2006年10月05日

格差の問題を前面にアピールして「再チャレンジ推進」を政策に掲げた安倍晋三氏。小泉政権で公共事業は30%以上減少し、大規模流通業の出店規制緩和も加わって地方経済は厳しい状況におかれている。安倍政権の発足で地方経済の行方はどうなるのだろうか。
 


 
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地方に所得を生み出した「日本列島改造論」

9月19日に国土交通省が発表した2006年7月1日時点の都道府県地価調査(基準地価)は、現在の地域経済の現実を凝縮するような結果だった。東京、大阪、名古屋の三大都市圏の地価は、住宅地が前年比プラス0.4%、商業地がプラス3.6%と、ともに16年ぶりの上昇となった。その一方で、全国平均は、住宅地が前年比マイナス2.3%、商業地がマイナス2.1%とそれぞれ15年連続で下落した。

もちろん、その原因は地方圏の下落だ。地方圏の地価は、住宅地が前年比マイナス3.1%、商業地がマイナス4.3%と下落した。また、地方圏では調査地点の9割が下落し、山形、鳥取、香川、高知、長崎、大分、宮崎の7県の住宅地価は、下落幅を拡大した。こうした統計をみなくても、地方に出かけるとシャッター通りばかりで、経済が厳しい状況にあるのは誰の目にも明らかだ。

地方経済が活力を失っている原因は、大きく分けてふたつある。ひとつは、いわゆる構造改革の結果だ。昔から大都市に比べると地方経済の力は弱かった。高度経済成長期に入っても、農業だけでは食べられず、都会に出稼ぎに出なければならなかった。

その構造を根本的に変えたのが、田中派の自民党政治だった。「日本列島改造論」が生んだ投資ブームは、全国各地の建設業を潤し、地方に所得が生まれるようになった。ところが、この地方へ再分配が、バラマキを生み、そしてそこに利権と癒着と腐敗がついてまわるようになった。

付加価値の発生する場所が大都市に集中する産業構造

それに対するアンチテーゼとして生まれたのが小泉内閣で、徹底的に地方の収入源を絞り上げた。たとえば05年度の公的固定資本形成は00年度と比べてじつに10兆4000億円で、30.2%も減っている。小泉内閣の5年間で、公共事業は30%以上減少したのだ。役場と農協と建設業しか就職口がないといわれる地方経済にとって、これは厳しい仕打ちだった。

それに加えて、小泉内閣以前からはじまった大規模流通業の出店規制の緩和も大きな影響を及ぼした。大都市と違って地方都市には膨大な空き地があるから、ショッピングセンターやショッピングモールを作りやすい。そうやって作られた大資本の流通業が、広大な地域の購買力をブラックホールのように飲み込んで、地域の商店街をシャッター通りに変えてしまったのだ。

地方が活力を失ったもうひとつの要因は、ある意味でもっと深刻なもの、「産業構造の変化」だ。農業が中心だった時代は、基本的には同じ土地は同じ付加価値を生む。新潟県のように水や気候に恵まれていると、むしろ地方のほうが高い付加価値を生む場合もある。それが、工業中心になると、そこに変化が現われる。

相変わらず、工場は地方に立地するが、研究開発拠点や本社機能が大都市に集中しはじめるのだ。すると、高付加価値を生む部門が大都市に移ってくる。そして、第三次産業が中心になると、ますます付加価値の発生する場所が大都市に集中していく。たとえば、金融業、情報産業、シンクタンクなど知識集約型の産業はみな大都市立地型なのだ。

普通に考えれば、安倍政権下でも地方経済の没落は続く

それでは安倍政権の誕生でこうした状況に変化が生ずるのか。安倍氏は格差の問題を前面にアピールして「再チャレンジ推進」を政策に掲げた。しかし、財政面では歳出カットを優先する財政再建策を提言している。だから、地方が活力を失う最大の原因になった公共事業が復活することはありえないだろう。また、経済成長策は「イノベーション」促進だから、いまさら製造現場への派遣労働を禁止したり、大規模流通業を撤退させるようなことはしないだろう。

もちろん、産業構造の変化を止めるようなこともできるはずがない。だから、普通に考えたら、安倍政権下でも、地方経済の没落は続くと考えるべきだろう。

ただ、私はひとつだけ小さな可能性があると思う。それは、安倍内閣の支持率が小泉内閣と比べると相当低く、しかもすぐに危機的ラインまで下がっていく可能性があることだ。そうなると参議院選挙を乗り切るために、公共事業費の増額など、地方経済活性化のための財政出動に安倍内閣がでてくる可能性が生まれるのだ。

ただ、そうなれば都市部での支持が失われて安倍政権は長持ちしないだろう。いずれにせよ、安倍政権下で地方経済が復活することはありえないと私は考えている。

プロフィール

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 客員研究員
獨協大学特任教授
森永卓郎