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ゼロ金利で本当に得をするのは誰か?

更新日:2006年08月10日

金利の上昇は、我々にどのような影響を及ぼすのだろうか。直接的な効果は、資金の貸手がより多くの金利を受け取れるようになり、資金の借り手がより多くの金利を支払わなければならなくなる。経済学の教科書的にいえば、貯蓄をもつのが家計で、資金の借り手は企業だから、ゼロ金利解除で家計は潤い、企業は負担が増えるということになるのだが、さて・・・。
 


 
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3000万円の住宅ローンで年7万5000円の金利負担増

日本銀行が7月14日に5年4カ月続いたゼロ金利を解除した。今回のゼロ金利の解除は、コール市場という金融機関同士が短期資金を融通する市場の誘導目標金利を、これまでのゼロから0.25%に引き上げるということだ。つまり、直接的には短期金利を引き上げるということだけで、それ以外の何かをするわけではない。

ただし、短期金利が上昇すれば、それに引きずられる形で中長期の金利も上昇する。実際には、中長期の金利は日銀がゼロ金利解除を実行する前に、それを織り込んで、すでに上昇していた。だから、タイミングや程度の差はあるが、短期金利の上昇は、すべての金利の上昇に結び付くのだ。

それでは、金利の上昇は、我々にどのような影響を及ぼすのだろうか。直接的な効果は、資金の貸手がより多くの金利を受け取れるようになり、資金の借り手がより多くの金利を支払わなければならなくなることだ。経済学の教科書的にいえば、貯蓄をもつのが家計で、資金の借り手は企業だから、ゼロ金利解除で家計は潤い、企業は負担が増えるということになる。

しかし、現実はそう単純ではない。家計のなかでも、大量の預金をもっている家計もあれば、ほとんど預金のない家計もある。さらに住宅ローンを抱えて、借金のほうが多い家計もある。国土交通省の調査によると、期間10年超の住宅ローンを選択している世帯は、5%しかいない(平成17年上半期末残高)。

残りの95%の世帯は、いずれかのタイミングで金利が上昇するリスクを背負っている。なかでも変動金利の住宅ローンを抱えている世帯は、全体の33%存在するが、その世帯は最初に金利上昇の被害を受けることになる。 大手銀行は7月中にも短期プライムレート(企業向け最優遇貸出金利)を0.25%引き上げる方針をとっている。

変動金利型住宅ローンの金利は、短期プライムレート+1%で決まるから、変動金利の住宅ローンは、短期プライムレートの引き上げ幅と同率で金利が上昇するのだ。つまり、3000万円の住宅ローンを抱えていれば、年7万5000円の金利負担増となる。

無借金経営なら金利上昇はプラス

預金のほうは、金利の引き上げ幅が0.1%程度だが、住宅ローンの引き上げ幅は0.25%前後に達する。また、預金を3000万円もっている人はほとんどいないが、3000万円の住宅ローンを抱えている人は多い。つまり、家計のレベルでみると、ゼロ金利解除で潤うのは借金がなく巨額の預金をもつ世帯で、その数は少ない。一方、被害受けるのは大きな金融資産をもたず、巨額のローンを抱える世帯であり、現役世代にかぎれば意外に多い。

この構造は企業でも同じだ。大企業は、時価発行増資など資本市場を通じて資金調達ができるから、短期金利を引き上げられても、大きな影響を受けない。また、収益力の高い企業は、そもそも無借金経営になっているから、金利が上がったほうが有利になる。それに対して、中小企業の場合は資金を銀行や信用金庫に頼らざるを得ない場合が多い。資金不足のケースが多いし、資本市場から資金を直接調達することが難しいからである。

結局、ゼロ金利解除の直接効果は、家計でも企業でも、強者に有利で、弱者に不利ということになるだろう。それでは、ゼロ金利解除の間接効果はどうだろうか。前回2000年8月のゼロ金利解除のときは、景気が3カ月後には後退過程に入ってしまった。金融引き締めのタイミングが早すぎると、景気を失速させてしまうのだ。

ゼロ金利解除で経済格差がますます開いていく

その点、今回はどうなるのだろうか。じつは、この点でも、大企業と中小企業は異なるのだ。たとえば、6月の日銀短観(企業短期経済観測調査)で業況判断指数(「景気がよい」と答えた企業の割合−「景気が悪い」と答えた企業の割合)をみると、大企業製造業はプラス21%だが、中小非製造業はマイナス6%と、景気が悪いと考えている企業のほうが多いのだ。

中小企業の業況判断がいつも大企業を下回っているわけではない。今回は、中小企業はまだ景気が戻っていないのだ。原油価格の上昇にともなう原材料費の上昇分を製品価格に転嫁できない中小企業の経営は苦しい。そこに支払い金利の上昇が加わると、中小企業の経営は一層厳しくなるのだ。

つまり、直接効果でみても、間接効果でみてもゼロ金利解除の悪影響を受けるのは経済的な弱者であり、経済的強者は悪影響を受けないか、むしろメリットを受けることになるのだ。日本経済全体として、今回のゼロ金利解除によるデフレ効果を吸収できるのか、判断は難しい。しかし、今回のゼロ金利解除で経済格差がますます開いていくということだけは、確かだろう。

プロフィール

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 客員研究員
獨協大学特任教授
森永卓郎