経営者の味方「社長・経営者のための経営課題解決メディア WizBiz」

WizBiz:HOME >  ビジネスマガジン >  ビジネスコラム >  森永卓郎の経済探偵録  >  格差社会をどう“豊かに”生きるのか  詳細


格差社会をどう“豊かに”生きるのか

更新日:2006年04月20日

厚生労働省の調査によれば月給20万円以下がおよそ8割! 低所得層の拡大により、格差社会をどう生きるかが深刻な社会問題になっている。年収300万円時代を提唱した森永氏は、見栄を捨て、生活費を節約すれば年収300万円で精神的に豊かな生活は可能であると説く。
 


 
 森永卓郎氏 顔写真
 
 
バックナンバー
 
中小企業が景気回復を実感できない理由
2006年03月23日
ライブドア事件から学ぶ4つの投資基準
2006年02月23日
耐震強度偽装事件でマンション市況はどうなる!?
2006年01月26日
景気回復でも年収300万円時代が続く理由
2006年01月05日
TBSが楽天にゆったりと対応した理由
2005年12月01日
プロ野球球団の上場は是か非か
2005年11月02日
郵政民営化で誕生するニュービジネスを試算!
2005年10月06日
郵政民営化で本当に得するのは誰か!?
2005年09月08日
猛暑で儲かるビジネス、じつは……
2005年08月11日
クールビズの経済効果を実証する!
2005年07月14日
消費者心理が先か、景気が先か
2005年06月16日
3つの理由から外食市場は横ばいで推移
2005年04月28日
ニッポン放送株争奪戦の本質を突く!
2005年03月31日
どこへ向かう!? 団塊の世代の退職金
2005年03月03日
IT長者ブームはいつまで続くのか
2005年02月03日
新興証券市場は正しく機能するのか
2005年01月06日
法令遵守が健全に機能する条件
2004年12月02日
メディアを鵜呑みにしないニュースの読み方
2004年11月04日
 
バックナンバー一覧
 
 
 
 
 

3人に1人が年収100万円台の「下流」

最近、「あなたが年収300万円で暮らせるなどという本を出すから、本当に格差社会がやってきてしまったではないか」という指摘をよく受ける。しかし、そうした指摘はいまの格差社会を的確にとらえていないと思う。いまの格差社会の問題は、年収300万円層が拡大しているのではなく、年収300万円にも遠くおよばない所得の人が劇的に増えているということなのだ。

これまで中流を構成してきた日本のサラリーマンのなかで、正社員が減り、非正社員が増えるという傾向が続いている。総務省の「就業構造基本調査」によると、非正規就業者の割合は、1997年から2002年にかけて、男性は10.1%から14.8%へ、女性は42.2%から50.7%へと大幅に増加しており、とくに女性は過半が非正社員となっているのだ。

問題は、非正社員の所得があまりに低いということだ。厚生労働省の「平成15年就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、非正社員のうち、月給10万円未満の人が37.2%、10万円から20万円未満の人が40.8%と、月給が20万円に届いていない人が8割近くに達している。厚生労働省は平均値を公表していないが、おそらく非正社員の平均年収は100万円台だろう。

同じサラリーマンでも、正社員だと年収400万円台から500万円台、非正社員だと年収100万円台だ。その年収100万円台が3人に1人以上に増えてしまったというのが、「下流」の正体なのだ。

貯蓄ゼロの世帯は3年間で16.3%から23.8%へ

いまの世の中で、年収100万円台で暮らすのは容易でない。家賃が月5万円のところに住んだとしても、生活費は月に10万円を切ってしまう。生活が苦しいというだけでなく、健康保険や公的年金にも加入できないのだ。そうした非正社員層のかなりの部分が、正社員の家族と同じ世帯のなかに組み込まれていたため、貧困が大きな社会問題になることはなかったが、それでもじわじわと「下流」の拡大は統計に表われはじめている。

金融広報中央委員会の調査で、貯蓄がゼロの世帯は2002年には16.3%だったが、2005年には23.8%に達している。学用品や給食費などの就学援助を受ける児童・生徒は2004年度に134万人で、4年間で37%増えた。国民健康保険の長期滞納を理由に、資格証明書を交付されて、保険証を使えない無保険者は2004年度に30万世帯と、4年間で3倍に増えた。生活保護世帯は2000年の75万世帯から2004年には100万世帯となった。

OECDの調査によると、日本の貧困率(全国民の所得の中央値の半分以下しか所得のない人の割合)は、80年代半ばには11.9%だったが、00年には15.3%と加盟国中第5位にまで「躍進」している。年収100万円層の暮らしは、かなり悲惨だ。病気になっても病院にいけないし、歯が折れても治せない。食事も楽しむというより、カロリーを摂取するという生活を余儀なくされるからだ。

理想は「釣りバカ日誌」の浜ちゃんのような生き方

自分が本を書いたからいうのではないが、一番望ましいのは、年収300万円台を確保する正社員層の暮らしだと思う。「全国消費実態調査」をみると、この所得階層の家計は黒字だし、テレビや冷蔵庫といった主要耐久消費財の普及率は100%に近い。乗用車でさえ7割の世帯がもっている。もちろん健康保険や公的年金にも加入することができる。また、欧州の平均的な世帯の年収は300万円程度だ。

それでも、年収1000万円の「中の上」をめざしたいと考えている人は多いと思う。もちろん、それが簡単に手に入るのなら、それはそれで構わない。しかし中の上をめざす道は年々険しくなってきている。誰よりも早く出社し、終電までサービス残業でがんばる。上司の機嫌をうかがい、上司が命じる無理難題をすべてクリアする。取引先からの理不尽な要求にもすべて応じる。

そうやって心と体がボロボロになるまで働いても、年収1000万円が保証されるわけではない。かりに年収1000万円の報酬が手に入ったとしても、それが心と体を害してまで手に入れるべき性格のものだろうか。

私は、仕事というのは、本来楽しいものだと思う。やり過ぎるからつらくなるのだ。一番理想的なのは釣りバカ日誌の浜ちゃんのような働き方だと思う。出世しなくてよいから、ほどほどに働く。そういう働き方で年収300万円台を確保するのが望ましい働き方なのだ。300万円の年収があれば、あとは生活の工夫でなんとかなる。詳しく書く紙幅はないが、要は見栄を捨てて、生活費を減らすことだ。

郊外や公営住宅に住む。車は大衆車にする。高級ブランドはもたず、シンプルで安価だがセンスのよい服装をする。食事は、旬で安い素材で作る。そんな生活の工夫をすれば300万円の生活は可能だ。そして、そんな生活費でも、気のおけない仲間と一緒におしゃべりをしたり、食事を楽しんだりする暮らしをしていれば、十分に満足は得られるのだ。

そうした生活は、何かに追いかけられているように暮らす年収1000万円の生活よりも、ずっと「豊か」なのだと思う。

プロフィール

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 客員研究員
獨協大学特任教授
森永卓郎