経営者の味方「社長・経営者のための経営課題解決メディア WizBiz」

WizBiz:HOME >  ビジネスマガジン >  ビジネスコラム >  森永卓郎の経済探偵録  >  中小企業が景気回復を実感できない理由  詳細


中小企業が景気回復を実感できない理由

更新日:2006年03月23日

景気が回復したといわれているが、その実感をもてない中小企業が多いようだ。各種の景気指標は改善を示しているのに、なぜ景気回復を実感できないのだろうか。デフレへの対応力、中小企業政策の転換などで、大企業と中小企業との間で“景気の分断”が生じているのだ。
 


 
 森永卓郎氏 顔写真
 
 
バックナンバー
 
ライブドア事件から学ぶ4つの投資基準
2006年02月23日
耐震強度偽装事件でマンション市況はどうなる!?
2006年01月26日
景気回復でも年収300万円時代が続く理由
2006年01月05日
TBSが楽天にゆったりと対応した理由
2005年12月01日
プロ野球球団の上場は是か非か
2005年11月02日
郵政民営化で誕生するニュービジネスを試算!
2005年10月06日
郵政民営化で本当に得するのは誰か!?
2005年09月08日
猛暑で儲かるビジネス、じつは……
2005年08月11日
クールビズの経済効果を実証する!
2005年07月14日
消費者心理が先か、景気が先か
2005年06月16日
3つの理由から外食市場は横ばいで推移
2005年04月28日
ニッポン放送株争奪戦の本質を突く!
2005年03月31日
どこへ向かう!? 団塊の世代の退職金
2005年03月03日
IT長者ブームはいつまで続くのか
2005年02月03日
新興証券市場は正しく機能するのか
2005年01月06日
法令遵守が健全に機能する条件
2004年12月02日
メディアを鵜呑みにしないニュースの読み方
2004年11月04日
 
バックナンバー一覧
 
 
 
 
 

大手・中小間で分断された景気回復

景気は順調に回復してきているといわれる。確かに、統計でみるとそれは明らかだ。たとえば内閣府が景気判断に用いている景気動向指数は、昨年8月から今年1月まで6か月連続で景気判断の基準となる50%を超えている。景気動向指数は、鉱工業生産指数や大口電力使用量など、景気に敏感に反応する11の景気指標を3カ月前と比較し、11指標のうち何%の指標が改善を示したかを示す数字だ。12月の景気動向指数は90%、1月は100%、つまり直近では、すべての景気指標が改善を示していることになるのだ。

ところが、これだけ数字がよいのに、一般庶民には景気回復の実感がない。それはなぜなのだろうか。

じつは、今回の景気回復は、全体がよくなっているのではない。よいところはよいが、悪いところは悪いという景気の分断が起こっているのだ。景気の分断は、大都市と地方、企業と労働者などでも起こっているが、ここでは、大企業と中小企業間の分断を考えてみよう。

日本銀行が四半期ごとに行なっている企業短期経済観測調査(短観)の業況判断DI(業況が「良い」と答えた企業の割合−「悪い」と答えた企業の割合)は、昨年12月の結果で、大企業は19%、中小企業はマイナス2%となっている。つまり、中小企業はいまだに業況が悪いと答えている企業のほうが多いのだ。

中小企業が大企業と比べて、いつも厳しい景気認識を示しているわけではない。たとえば、92年第3四半期から94年第2四半期までの2年間は、中小企業のDIのほうが高かったのだ。

デフレへの対応力の差が明暗を分けた

なぜ中小企業の経営が苦しくなったのか。その要因はいくつもあるが、ひとつの要因は、デフレへの対応力の差だろう。デフレで国内市場が縮小するなかで体力面で優位に立つ大企業は、需要の伸びるアジア市場、とくに中国で大きな収益を獲得することに成功した。しかし、中小企業は十分にそうしたグローバル展開ができなかった。

また、政府の産業政策も大企業と中小企業間の経営体力差を拡大した。そもそも、80年代までは、中小企業は産業政策として、保護すべき対象だった。ところが、90年代以降その認識が転換される。中小だからといって、弱者と決めつけ、保護することはないというように政治の在り方が変わったのだ。平成18年度予算でみても、中小企業対策費は前年度予算比6.6%も減少している。

中小企業を苦しめる政策といったら、3月9日に日銀が行なった量的金融緩和政策の解除も同じだ。大企業は、今回の量的金融緩和政策解除を前向きに評価している。たとえば日本経済新聞社が3月9日に主要企業109社の経営トップに行なった量的金融緩和政策解除に関する緊急アンケート調査によると「適切な時期」と評価した社長が67.9%と、「4月以降にすべきだった」と答えた社長の20.2%を大幅に上回った。

しかし、これは考えてみれば当然のことだ。大企業は証券市場から直接資金調達ができるし、銀行借り入れをそもそも必要としない「無借金経営」をしているところも多い。ところが、中小企業は違う。金融引き締めで金利が上昇すれば、利払いが経営を圧迫してしまう。

“中小企業不況”は終わりそうにない

今回はまだ量的金融緩和政策の解除だけで、ゼロ金利が解除されたわけではないから、経済に大きなマイナスの影響はでてこないだろう。しかし、早期にゼロ金利解除がなされると、2000年8月のゼロ金利解除の悪夢が甦る可能性が高いだろう。なぜならGDPデフレータ(GDP全体の物価水準)は、直近の昨年10〜12月期に前年度比1.6%の下落をしているからだ。デフレはまったく終わっていないのだ。

GDPデフレータ下落の主因は、原油高で輸入物価が上がったからだ。GDPデフレータは、名目GDPを実質GDPで割って算出する。分子の名目GDPは、消費+投資+輸出−輸入だ。実質がまったく変わらず、原油価格上昇で輸入価格が上がったと仮定すると、分子の輸入が増えるが、輸入にはマイナスの符号がついているので、GDPデフレータはマイナスになるのだ。

もちろん、原油価格の上昇を製品価格に転嫁できるのであれば、消費や投資の名目額が増えるので、GDPデフレータは下落しない。いまGDPデフレータが下落しているのは、原油高が製品価格に転嫁できないほど、景気がよくないということなのだ。

しかも、ここにも大企業と中小企業の格差を生む要因がある。たとえば、原油価格が上昇すると、大企業がやっている電力や航空会社は、料金を自動的に引き上げられる仕組みをもっているが、中小事業者の多いトラックやタクシーは、いくら燃料費が上がっても料金に転嫁することができないのだ。

中小企業ではデフレが続いているのに、経済強者だけが起こした都心の地価高騰というミニバブルを抑え込むため、日本銀行は量的金融緩和政策の解除を決めた。今後、ゼロ金利解除まで進めば、銀行からの借り入れに頼らざるをえない中小企業は、利払いの増加でますます厳しい状況に追い込まれる。中小企業不況は終わりそうにないのだ。

プロフィール

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 客員研究員
獨協大学特任教授
森永卓郎