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ライブドア事件から学ぶ4つの投資基準

更新日:2006年02月23日

ライブドア事件はとりわけ個人投資家に大きな損失を与えた。一方で、この事件は投資判断の基準をどのように設定したらよいのかを学ぶ契機にもなったのではないだろうか。森永氏が“あるべき投資基準”を提示する。
 


 
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事件を契機に冷静な投資行動が戻れば大きな前進

1月27日の日経平均株価は、1万6460円と、ライブドアに強制捜査が入る直前の1月16日の終値1万6268円を上回った。株式市場を全面安に追い込み、海外マーケットまで株安をもたらしたライブドアショックは、たった10日間で元に戻ったことになる。株式市場が早期に復活した原因は、偽計取引などの証券取引法違反が、ライブドアやライブドアグループだけの問題であり、他企業への波及はないと株式市場が見切ったからだろう。

実際、堀江社長が逮捕されたあと、新聞報道などで明らかになったのは、株式分割と株式交換、そして投資事業組合を使った株価操作による粉飾決算だった。その錬金術は、他の企業でみられるはずのない悪質なものだった。ライブドアは「法律の網をくぐった」とか「法律スレスレのことをやってきた」という評価があったが、それは誤りで、ライブドアがやってきたのは「違法でも、捕まらなければ構わない」という経営だったのだ。そんなことを普通の企業がするはずがないのだ。

ただし、ライブドア事件が株式市場に影響をいっさい与えていないかというと、そうでもなさそうだ。たとえば2月10日の日経平均株価は1万6258円と再び強制捜査直前の水準を下回ったし、取引も膨らんでいない。たとえば、昨年12月の東証一部の1日あたり平均売買高は27億株だったが、2月6日21億株、7日24億株、8日22億株、9日21億株、10日26株と、取引高はかつての勢いを失っているのだ。

それは当然かもしれない。正確な統計があるわけではないが、マネー雑誌の編集者に聞くと、ライブドア株で信用取引をしていた投資家のなかには破産に追い込まれたり、あるいはライブドア株の値下がり分を埋め合わせるために、他の所有株を売って、財産を大きく減らした投資家が多かったのだそうだ。

もちろん、ほかでもないライブドア株が、強制捜査後に格好のマネーゲームの対象となっているという事実はあるものの、それは本当の局地戦で、大部分の投資家がライブドア事件で我に帰り、冷静な投資姿勢に戻ったということは、株式市場の長期的な発展という観点からみれば、むしろ大きな前進ではないかと思われる。

極端な株式分割や敵対的M&Aは投資対象として危険

今回の事件を経験して、投資家の行動が変わったのは、おもに以下の点だろう。

第一は、新興市場のもつリスクが再認識されたことだ。ライブドアが上場していたマザーズやヘラクレス、ジャスダックといった新興市場は、東証一部、二部といった市場と比べると上場基準が緩やかだ。だから、成長性の高い企業もあるが、リスクの高い企業もあるのは当然なのだ。

第二は、あまりに極端な株式分割をしている企業は危険ということがわかったことだ。ライブドアは4年あまりで3万分割をしていた。その結果、ライブドアの発行済み株式数は10億株を超えていた。冷静に考えてみれば、この規模の企業としては、異常な株式数だったのだ。また、単元株が1株で、数百円で株主になれるという点でも、ライブドアは異常だった。そんな取引単位では、株主事務のコストばかりが増えてしまうからだ。大幅な株式分割については、すでに東京証券取引所が自粛要請を行なっているが、そもそも投資家が異常な株式分割をチェックすべきだったのだ。

第三は、敵対的M&Aを仕掛ける会社に投資するのは、危険だということだ。アメリカでも1980年代に敵対的M&Aのブームが起きた。しかし、いまではすっかり下火になり、年に数件しか行なわれていない。買収相手先の従業員の理解が得られない企業買収は、うまくいかないことがわかったからだ。その教訓を学ばない企業は、やはり何らかの問題があると考えるべきなのだ。

第四は、配当原資があるのに配当をしない企業は、注意したほうがよいということだ。ベンチャー企業の場合は、配当をするより資金を投資に回したほうのよい場合がある。しかし、ある程度の段階に達したら配当をすべきだ。昨年12月に行なわれたライブドアの株主総会では、ひとりの株主が「時価総額も8000億円になり、利益もでているのだから、1株あたり2円の配当を支払ってほしい」という株主提案を行なった。

堀江前社長は「配当をすると税金がかかってしまうので、それよりは内部留保で投資をして、株価を上げたほうが有利」として、提案に応じなかった。しかし、事業を行ない、その成果を配当として株主に還元するのは株式会社の基本だ。いまから思えば、この株主提案は正しかったことになる。2円だけでも、投資を回収できたからだ。

以上で挙げた4つのポイントは、冷静に考えれば、ごく当たり前のことだ。だから、常識的な判断基準をもっていれば、そもそもライブドアへの株式投資は、怖くてできなかったはずなのだ。実際、ライブドアの株主の9割は個人投資家で、プロはもともとライブドア株をあまり買っていなかった。ライブドア株で大損をした個人投資家は、まともな会社に投資すべきという、ごく当たり前のことを学んだに過ぎないのではないだろうか。

プロフィール

三菱UFJリサーチ&コンサルティング客員研究員
獨協大学特任教授

森永卓郎