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森永卓郎の経済探偵録
収入減のなかで物価が上昇!

更新日:2008年01月10日

首都圏だけでも続々と大型商業施設が開業している。しかし、過去5年間で消費者は14兆円も手取り所得を減らした。物価の上昇もはじまった。「収入減のなかでの物価上昇」という戦後経験のない事態に消費者が追い込まれるなかで、開業ラッシュは消費を喚起できるのだろうか。
 


 
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8年ぶりに訪れたお台場「ビーナスフォート」での驚き

大型商業施設の出店は長らく規制されてきた。1973年に施行された大規模小売店舗法にもとづいて、大型商業施設が出店しようとするときには、大規模小売店舗審議会の審査を受ける必要があった。大規模小売店舗審議会は、地元商店街等への配慮を重視したため、店舗面積や営業時間など、事業者の計画通りに建設ができないケースがほとんどだった。

しかし、規制緩和の流れや外圧によって、2000年に大規模小売店舗法は廃止され、店舗面積の規制を行なわない大規模小売店舗立地法が施行されることになった。このため、日本経済がデフレに突入し、消費が冷え込むなかでも大型商業施設がハイペースで作り続けられるという事態が継続したのだ。

最近でも、IKEA船橋、表参道ヒルズ、LAZONA川崎、ららぽーと柏の葉、ららぽーと豊洲など、首都圏だけでも続々と大型商業施設が開業している。開業の度に、多くの消費者が押し寄せるニュースが流されているが、はたして大型商業施設の開業は、消費を喚起しているといえるのだろうか。

じつは07年12月にお台場のビーナスフォートに行って驚いた。人影がまばらなのだ。私はビーナスフォートが開業した1999年以来出かけていなかったが、当時は歩くことさえままならないほど、人があふれていたのだ。とくにサービスが悪化したとか、施設が老朽化したとかいうことはない。天井に描かれた空も美しくライトアップされていたし、店もクリスマス飾りで、華やいだ雰囲気を演出していた。何が起こったのかといえば、単に新しくできた商業施設のほうに人が移ってしまっただけなのだ。

消費者は浮気者だ。商業施設の側に何ら落ち度がなくても、新しい施設ができれば、そちらに興味を移してしまう。六本木ヒルズもあれだけ繁盛していたのに、東京ミッドタウンができたら、六本木駅からの人の流れがすっかり変わってしまったのだ。少なくとも、東京周辺の大型商業施設に関しては、開業時こそ人が入るが、数年たつとすっかり見放されてしまうということが繰り返されている。つまり、大型商業施設は、一見消費喚起の効果があるようにみえて、ほとんど効果がないことになる。

大規模店舗の数は増えたが、売上増に結びついていない

ところが、地方の場合は事情が異なる。イオンモールに代表される地方のショッピングモールは、周辺の購買力を根こそぎ奪って、ひとり勝ちの状況を変えていない。しかし、そこでも、一歩退いて見渡すと、地元の商店街は、軒並みシャッター通りと化しており、地域全体の消費が拡大したという事実はないということになる。

統計で確かめてみよう。経済産業省の「商業統計」で、店舗面積1000平米以上の小売業の事業所(以下、大規模店舗)と店舗面積1000平米未満の小売業の事業所(以下、小規模店舗)を比べると、1999年から2004年の5年間で、小規模店舗の店舗数が13.0%減ったのに対して、大規模店舗の店舗数は44.9%も増えている。

それでは、それが売り上げにどのように結びついたかというと、小規模店舗の年間販売額が5年間で12.7%減ったのに対して、大規模店舗の年間販売額は2.1%増えたに過ぎないのだ。小規模店舗の売り上げ減が、ほぼ店舗数の減少率に見合っているのに対して、44.9%も店舗数を増やした大規模店舗は、それをほとんど売上増に結びつけることができていないのだ。

魅力的な商品やレジャースポットが大型商業施設によって提供され、一度大型商業施設に入ると、夜まで出られないほどなのに、なぜ消費が盛り上がっていかないのだろうか。その原因は、消費者の手取り所得が伸びていないことに尽きるのではないか。

過去5年間で消費者は14兆円も手取り所得を減らした

景気が底を打って、拡大に転じた2002年1〜3月期から5年間の国民経済の変化をみると、名目GDPは22兆円増えている。ところが、働く人への分配である雇用者報酬は5兆円の減少となっている。働く人たちは景気回復の恩恵をうけていないどころか、景気拡大期に所得を減らされているのだ。

しかも家計はこの間に、配偶者特別控除の廃止や定率減税の廃止、たばこや発泡酒の値上げなど、総額5兆円も所得を減らしている。さらに、社会保険料の負担増が4兆円ある。つまり、この5年間で消費者は14兆円も手取り所得を減らしているのだ。

それでも、大型商業施設の効果はあったのかもしれない。総務省の「家計調査」でみると、勤労者世帯の平均消費性向は2000年の72.1%から、2001年72.1%、2002年73.0%、2003年74.1%、2004年74.3%、2005年74.7%と、どんどん上昇していったからだ。つまり、消費者は手取り所得が減るなかでも、消費のレベルを保とうと、貯蓄を減らして消費に努めてきたのだ。

もちろん、それがすべて大型商業施設のせいだとはいえない。しかし、その原因のひとつだったことは間違いないだろう。しかし、2006年の消費性向は72.5%と激減しているのだから、その効果が大きかったとはとてもいえない。

今後、大型商業施設が庶民の支持を維持できるかどうかは価格にかかってきていると思われる。なぜなら、日本が戦後初めて、不況のなかで物価が上昇する「スタグフレーション」に見舞われると考えられるからだ。2007年10月から消費者物価が上昇に転じた。その後も、洋菓子や灯油、タクシー代などが値上げになり、2008年からはビール、牛乳、麺類などの値上げが予定されている。

こうした物価高は、通常賃金上昇率のアップに結び付くが、07年夏のボーナスも冬のボーナスも減少に転じた。不況のなかで、十分な値上げができず、企業の付加価値が圧迫されているからだ。企業もない袖を振ることなどできないのだ。

そうしたなかで、イオンはプライベートブランドの「トップバリュ」のうち、食パン、ヨーグルト、しょうゆ、洗剤など24品目の価格を11月30日から10〜25%値下げした。収入減のなかでの物価上昇という戦後経験のない事態に消費者が追い込まれるなかで、今後支持される大型商業施設は、そうした消費者の所得環境の変化に対応できるところだけになるのではないだろうか。

プロフィール

三菱UFJリサーチ&コンサルティング客員研究員/獨協大学経済学部教授 森永卓郎