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景気回復でも年収300万円時代が続く理由

更新日:2006年01月05日

日本経団連が賃上げを容認する姿勢を打ち出した。しかし中小非製造業では景気が悪いと感じている企業のほうが多く、さらにデフレ脱却にともなう物価上昇や定率減税の半減などで家計が苦しくなる可能性も。筆者が提唱した「年収300万円時代」は、そう簡単に終わりそうにない。
 


 
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日本経団連が賃上げを容認する姿勢

国税庁の「民間給与の実態」によると、サラリーマンの年収は7年連続で下がり続け、04年には平均439万円と、年収300万円台突入が目前に迫ってきた。ところが最近になって、にわかに情勢が変わってきた。デフレ脱却期待が広がり、賃上げが可能となる環境が整ってきたのだ。

それを象徴するのが、12月13日に日本経団連がまとめた「経営労働政策委員会報告」だ。報告書は賃金について「引き上げはできないと判断する企業が大多数」としながらも、「働く人の意欲を高める適切なかじ取りが望まれる」と、経営に余裕のある企業に対しては、賃上げを事実上容認する姿勢を打ち出したのだ。

春闘への対応方針は旧日経連(現日本経団連)が、経営側の意見を代弁してきた。日経連のかねてからの主張は、賃上げ率を実質生産性の範囲内に収めるべきとする「生産性基準原理」だった。「賃上げ率≦名目経済成長率−物価上昇率−就業者伸び率」というのが、日経連の考えた賃上げ方程式だったのだ。ところが、デフレ時代には、この賃金決定方式は経営側に不利なものになる。なぜなら、物価上昇率がマイナスになると、それが賃上げ要因になってしまうからだ。

そこで日経連は、94年に「賃上げは事実上困難」とする基本方針を示して、賃上げ抑制に入った。そして95年には鉄鋼大手がベアゼロで妥結して、賃金が上がらない時代がやってきたのだ。さらに02年にはトヨタまでがベアゼロで妥結した。これらの時期は、まさに日本経済がデフレに突入した時期と重なっている。デフレが年収300万円時代をもたらしたといってもよいだろう。

物価上昇と定率減税の半減などで家計が苦しくなる

それが、いまデフレ脱却期待とともに、情勢は大きく変わりはじめている。トヨタ労組はベア要求に踏み切る見通しとなり、電機連合もベア要求をする方針だ。ただ、比較的業績のよい自動車や電機でも、業績不振の会社はベア要求に追随できないとみられており、業界内でも企業間格差が拡大しそうだ。ましてや、中小零細企業のベアが実現するのは、まだ先になりそうだ。

日銀の企業短期経済観測調査(短観)の12月データによると、大企業製造業では「業況がよい」と答えた企業の割合(%)から「業況が悪い」と答えた企業の割合を差し引いたDIがプラス21%であるのに対して、中小非製造業ではマイナス7%となっている。

つまり、中小非製造業では、景気が悪いと感じている企業のほうが多いのだ。こうした状況の下では、幅広くベアが行なわれる環境にはとてもないといえるだろう。

結局、ベースアップができるのは、業績好調な企業だけで、他の企業の給与は改善されない。そこにデフレ脱却に伴う物価上昇と定率減税の半減やたばこ増税による税負担増が加わるから、普通の家計はむしろ苦しくなる可能性が高い。年収300万円時代は、そう簡単には終わりそうにないのだ。

プロフィール

UFJ総合研究所 経済・社会政策部
主席研究員 森永卓郎