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プロ野球球団の上場は是か非か

更新日:2005年11月02日

村上ファンドが、阪神電鉄の発行済み株式の38%を保有していることで、阪神球団の株式上場問題がクローズアップ。プロ野球球団の株式上場は球団運営になじむのかどうか、賛否が分かれるところだが、さて、森永氏の見解はどうだろうか?
 


 
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球団経営は上場に適していないビジネス

10月3日、村上世彰氏が率いる村上ファンドが、阪神電鉄の発行済み株式の38%あまりを保有していることが、関東財務局に提出された大量保有報告書で明らかになった。

村上ファンドは阪神電鉄に阪神球団の株式上場を要求したが、11日に阪神電鉄の西川恭爾社長との会談を終えた村上代表は、阪神球団株の上場について「阪神タイガースのファンクラブには15万人の会員がいる。ファンが上場を望んでいるのか聞いてみたい」と述べ、ファンの多くが上場を望まないのであれば、上場にこだわるわけではないことを明らかにした。

この村上発言以来、プロ野球チームの上場問題が大きくクローズアップされた。評論家だけでなく、多くの国民が上場の賛否をめぐる議論をはじめたのだ。

私がパーソナリティを務めるラジオ番組(ニッポン放送「森永卓郎 朝はニッポン一番ノリ!」)では、リスナーの意見を調査した。結果は、上場反対が6割、賛成が4割だった。私は、上場反対派が圧倒的多数を占めるだろうと考えていた。しかし、上場に賛成する人が予想以上に多かったのだ。

上場に賛成する理由は、大きく分けてふたつあった。ひとつは球団運営の資金確保だ。上場して豊富な資金が入ってくれば、球場の改修や選手の強化などにそれを使って、より楽しい野球をみられるようになる。もうひとつは、現状の球団経営に対する不満だ。チームの主力選手を安易にトレードに出してしまう、選手起用にフロントが口を出す、必要な補強をしてくれない。上場して、ファンが株主になれば、そうしたファンを無視した球団経営が姿を消すだろうというのだ。

確かに、株式上場が球団経営を改革するきっかけになることは間違いない。しかし、それが同時に大きなリスクを伴うことも事実だ。球団経営というのは、けっして儲かるものではない。日本のプロ野球で実質的に黒字を出している球団は、おそらく4〜5球団だけだ。残りの球団は親会社が赤字を補填している。

その額は年間20億円から30億円といわれている。だから、経営的に自立できないプロ野球球団は、そもそも上場に適していないのだ。メジャーリーグでさえ、過去に上場した球団はあったが、いまではどの球団も上場していない。

上場という劇薬のリスクをどう評価するか

ただし、イギリスのプロサッカーリーグであるプレミアリーグでは、およそ半数のチームが上場している。ところが、そこで事件が起こった。今年5月、アメリカの大富豪マルコム・グレイザー氏が株式公開買付でマンチェスター・ユナイテッドの75%以上の株式を取得した。その後も買い集めを続けて、6月には残りの株式を強制的に買い取ることのできる97.6%を突破して、マンチェスタの経営権を完全掌握した。

本来公共財であるべきサッカーチームが、私物化されてしまったのだ。株式市場のルールでは、特定の投資家が経営権を握るまで株式を買い集めてしまうことを阻止できない。もちろん、球団を買収した投資家がチームを愛し、パトロンとしてチームに潤沢な資金を注ぎ込んで、よりよいチームをつくることになるのであればよいのだが、そうした可能性は高くないだろう。とくに、買収者が「投資家」である場合はなおさらだ。

グレイザー氏はマンチェスター・ユナイテッドの収益力強化のために、入場料の値上げを検討しているという。日本でもプロ野球に新規参入した楽天は、広告料金を高く設定することなどによって、初年度から黒字を確保したが、十分な選手の補強をしなかったために、チームは最下位を独走することになった。また、3年計画でチームを育て上げようとしていた田尾安志監督も解任されてしまった。田尾野球がようやく浸透しはじめたところで、チームのアイデンティティが壊されてしまったのだ。

上場したら、必ずカネの論理が球団を支配するというわけではない。ファンによるファンのための球団経営が実現する可能性もあるだろう。しかし、上場という劇薬は、一歩間違えると球団の生命を奪ってしまうほどのリスクを抱えている。そのリスクをどの程度と評価するかが、上場への賛否を分けているのだと思う。

プロフィール

UFJ総合研究所 経済・社会政策部
主席研究員 森永卓郎