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法令遵守が健全に機能する条件

更新日:2004年12月02日

企業の不祥事が発生するたびに法令遵守(コンプライアンス)が強調されるが、続出する不祥事をみるかぎり、法令遵守は一向に浸透していない。何が問題なのだろうか。西武鉄道株の虚偽記載を例に考えてみよう。
 


 
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西武鉄道株虚偽記載の背景

コクドの堤義明会長が10月13日に行なった記者会見で、同社とグループ会社の全役職を辞任することを表明した。西武鉄道の株主構成に関して、有価証券報告書に虚偽の記載をしていたことの責任を取るためだ。

今年3月期の西武鉄道の有価証券報告書に記載された株式保有比率は、筆頭株主のコクドが43.16%だったが、それが64.83%に修正され、その結果として持ち株数上位10人の「少数特定者」の持ち株比率も63.68%から88.57%に上昇した。東証の上場基準では、少数特定者の持ち株比率が8割以上の状態が1年以上続いた場合は上場廃止となるが、堤会長はその状態が30年程度は続いていたと認めている。

すでにコクドは関係会社へ西武鉄道株を売却して、9月末時点で少数特定者の持ち株比率は8割を切っているとみられるが、虚偽報告を重くみた東京証券取引所は、西武鉄道の上場廃止を決定した。


もちろん、この虚偽記載問題によって、西武鉄道の株価が急落して投資家に大きな損失を与えたのだから、厳しい処分が必要なことは事実だが、私にはどうもこの事件は納得がいかないのだ。

まず、虚偽記載が行なわれた背景を整理しよう。堤会長が実質支配する非上場会社のコクドは、資本金1億500万円の小さな会社だ。そのコクドが、西武鉄道株をはじめとする3830億円もの資産を保有することができたのは、保有する株式の含み益を事実上の担保に、銀行が巨額の融資をしてきたからだ。関係会社の株式は取得原価でバランスシートに記載することができる。そこに膨大な含み益が生まれたのだ。

ところが、西武鉄道株は3月末に比べて3分の1以下に値下がりし、コクドの持つ含み益は3000億円以上吹き飛んだ。そうなると、コクドに融資をしている銀行は黙っていない。財務体質を改善するために、資産を売るよう圧力をかけてくるのだ。

トップの暴走を止めるのは司法、マスコミ、株主

実際、西武鉄道グループは、主力銀行と協調して不採算事業の洗い出しに着手したという。これまで、一切財務内容を明らかにしなかったレジャー施設の個別の経営内容も銀行に開示し、11月22日に設置する「西武グループ経営改革委員会」が策定する経営改善計画に合わせて、不採算事業の閉鎖や売却を急ぐとのことだ。西武グループの解体、叩き売りがはじまるのである。

もちろん、その原因は虚偽記載だが、東証の上場廃止方針が、株価の下落に拍車をかけたのも事実だろう。虚偽記載がそれだけ重い犯罪だというのなら、なぜ同様の虚偽記載のあった日本テレビ放送網は、同じ処分に至らないのだろうか。私の目には、西武を解体して一儲けしようとするハゲタカの影がちらついて仕方がないのだ。

その問題は別にして、それでは虚偽記載の再発を防ぐためにはどうしたらよいのか。西武鉄道は株式事務を外部委託する方針を示しているが、外部委託をしていた日本テレビ放送網でも同様の事件が起きているのだから、絶対的な効果はない。

東証は全上場企業のトップに、有価証券報告書の記載内容が真実であるとの誓約書を提出させる方針だが、誓約書がどれだけ効果をもつのかも不透明だ。結局、西武鉄道の虚偽記載の根源は、堤会長がグループ全体を支配しようとする独裁思想にあったのではないだろうか。

じつは、私は数年前、「失敗の研究」というプロジェクトに参画したことがある。そのとき経営トップの暴走をどのように阻止するのかという議論を専門家たちと行なった。結論は、基本的には止められないということだった。ただ、司法とマスコミと株主だけが、それを阻止できる可能性をもっている。

結局、一番確実なのは、株式の投資家が長期政権の続く会社の株を買わないようにするということなのではないだろうか。

プロフィール

UFJ総合研究所 経済・社会政策部
主席研究員 森永卓郎