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森永卓郎の経済探偵録
日本の農業ビジネスをどうするのか

更新日:2009年12月09日

 民主党のマニフェストに「農林水産業は成長産業である」とあるが、森永氏はこの考え方に全面的に賛同するという。しかし、実際の農業政策は、氏の考えとは、まるでかけ離れたことが行なわれようとしているそうだ。
 


 
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よくわからない民主党の農業政策

「農林水産業、医療・介護は新たな成長産業です。農業の戸別所得補償、医療・介護人材の処遇改善などにより、魅力と成長力を高め、大きな雇用を創出する産業に育てます」。民主党が政権を獲得した前回の総選挙でマニフェストに書いた文章だ。

農林水産業が成長産業だという考え方は、私も全面的に賛同する。農林水産業というのは、千変万化する自然に収穫が大きく左右されるから、変化に柔軟かつ迅速に対応することのできる高い技術レベルが必要になる。だから、世界で見ても、農産物の輸出国は、フランスやアメリカなど、圧倒的に先進国が多いのだ。

ところが、日本の農産物は、これまで国際競争力をほとんど持たず、食料自給率は他の先進国と比べて極端に低かった。その状態を改善するために民主党がマニフェストのなかで打ち出したのが、「戸別所得補償制度」の創設だった。農畜産物の販売価格と生産費の差額を販売農家に補償することで、農業を再生し、食料自給率を向上させるというのだ。

私は単純に、災害や天候不順などで十分な所得が得られなかった農家や農業経験が浅く十分な所得を得られない農家が、所得補償で農業や生活を続けられるようにすることによって、農業就業人口を拡充することが目的なのだと理解していた。

しかし、戸別所得補償制度は、やる気のある農家には評判があまりよくない。最終的に一反当たりいくらというコメ作り農家への補助金が出されるようになるだけで、高齢化した農家に香典を渡すようなものだという批判さえなされているのだ。実際にマニフェストに盛り込まれた文言をみると、そうした批判を否定できないような表現になっている。「所得補償制度では規模、品質、環境保全、主食用米からの転作等に応じた加算を行なう」と書かれているからだ。

もう一つ、民主党の農業政策がよく分からないのが、米国との間で結ぼうとしている自由貿易協定(FTA)と日本農業との関係だ。民主党は米国とのFTAの締結を目指すにあたって、食の安全・安定供給、食料自給率の向上、国内農業・農村の振興などを損なうことは行なわないとしている。

しかし、FTAというのは、そもそも関税を撤廃して、モノやカネの往来を自由にすることだ。だから、FTAを結んで、日本の農業を保護するという政策は、具体的なイメージが浮かんでこないのだ。

例えば、最も国際競争力が弱いと言われているコメには現在、キロ当たり375円という高率の関税がかけられている。コメの国際相場は、キロ当たり100円程度なので、国内に入ってくる輸入米の価格を5倍近くにしていることになる。そうしないと日本のコメが価格競争で負けてしまうのだ。

だから、アメリカと日本の間でFTAが結ばれて関税が引き下げられれば、アメリカから安い農産物が次々に流入して、日本の農業が壊滅するというシナリオは、あながち否定できないのだ。

農業が高い国際競争力を持つために

ただ、私は日本の農業が成長産業としての地位を確立する可能性は十分にあると考えている。日本の農業に「高付加価値化」、「輸出産業化」という新しい流れが生まれているからだ。リンゴやサクランボなどの果実や新潟産コシヒカリなど、日本の高品質な農産物が中国を中心とするアジア諸国に、どんどん輸出されるようになっているのだ。中国は日本よりもはるかに所得格差が大きい。それは、高所得者が急増しているということを意味している。富裕層は、いくら安くても国産のものではなく、日本産の高品質の農産物を買おうとしはじめているのだ。

そのときに品質と同時に重要なことがある。それは農産物の安全性だ。日本の農産物は高い安全性を持っている。日本のまじめな農家は、農薬の使用量をできるだけ減らし、収穫後は一切農薬を使わない。肥料も有機肥料だけを使っている農家がたくさんある。

ところが、大量の穀物を輸出している国のなかには、大量の化学肥料と農薬を使い、しかも収穫後にも農薬をかけてしまっているところがたくさんあるのだ。そうやって「効率的」に作られた穀物は、いくらコストが安いと言っても、食べたくないと考える人が多いだろう。もちろん、そうした人たちは、国内にも国外にもいるのだ。

だから、農業の成長戦略を考えるときには、どうしたら安全性をアピールできるのかを考えないといけない。農産物の安全性を訴えるのは、実は非常に難しいことだ。そこには3つの理由がある。

一つは、危険な残留物が農産物に入っていたとしても、それが蓄積されて健康を害するまでには、長い時間がかかるので、実際には健康被害の実態そのものが分からないことが多いのだ。第2は、人間は雑多なものを食べるので、健康を害した時にどの食品が原因なのかを特定することが難しい。そして第3は、人間は1週間前に食べたものさえ覚えていないので、その場で食中毒でも起こさない限り、健康被害を訴えることが不可能に近いのだ。

結局、日本の農産物の安全性をアピールするためには、国産と輸入の農産物を徹底的に検査して、そのリスクの違いを明らかにするとともに、日本がいかに安全性の高い農業生産をしているのかというプロセスを見せていかなければならない。そうした努力を積み重ねて、日本の農産物がブランド商品化したときに、初めて日本の農業が高い国際競争力を持てるのだ。米国とのFTAの締結は、その後からでよいだろう。

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎