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森永卓郎の経済探偵録
日本航空の再建プログラムは正しいのか

更新日:2009年11月11日

森永氏は、日本航空再建の方針に対して、「またダイエーの時と同じことをやるのか」と落胆しているという。日本航空の場合には、人員整理、赤字路線廃止といった切り捨てではない前向きの再建方法があるではないか、といっている。
 


 
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ダイエーの時と同じことが繰り返される

前原誠司国土交通相直属の「JAL再生タスクフォース」が、経営不振に陥っている日本航空の再建に「企業再生支援機構」を活用する方針を固めた。企業再生支援機構は、基本的に解散した産業再生機構のリバイバルで、仕組みも、おそらくメンバーも似たりよったりだ。もともとJAL再生タスクフォースは、JALの取引銀行に対して2500億円程度の債権放棄を要請することを再建計画の柱にしていた。しかし、銀行側から「放棄額が大きすぎる」と反発を受けて、計画が頓挫していた。

そこで企業再生支援機構の活用という構想が出てきたのだが、私は、政権交代をしたのに、また同じことをやるのかと、正直言って落胆した。これから日本航空に起こる事態は、ダイエーが産業再生機構に送られた後の処理と同じことになるだろう。

まず、当面の資金繰りのために公的資金を注入する。そして銀行団に一定の債権放棄を求めたうえで、大規模なリストラに取りかかるのだ。ダイエーの場合は、2004年12月に産業再生機構に送られ、2005年11月までに実に54店もの店舗閉鎖が行なわれた。

日本航空でも同様に、赤字路線の切り捨て、1万人規模の大幅な人員整理、航空機を始めとする資産の売却などのリストラを徹底することによって、収支を黒字に変える作業が行なわれるだろう。つまり、黒字の部分だけ残して、後は切り捨てるのだ。おそらく注入する公的資金は日本航空の株式に代えられ、一般の株主に対しては減資を強いて、会社の黒字化に目処が立って株価が上昇したところで売り抜ける。ダイエー再建の時には、この方式で産業再生機構は500億円を注入し、最終的に取得した株式を丸紅に668億円で売り渡して、短期間で168億円も儲けた。

今回も同じことが起こるだろう。一部には税金を注入して再建に失敗すれば国民負担が生ずると心配する声もあるが、私はそんなことはないと思う。日本航空は十分儲かる路線をたくさん抱えているからだ。

日航には前向きの再建法を

問題は、JAL再生タスクフォースは、専門家のチームであるとは言っても、それは企業再生の専門家であり、決して航空輸送事業の専門家ではないということだ。彼らがやることは、ただひたすら、黒字化のための縮小均衡を図るだけだ。その過程で日本航空の貴重な資産が売り払われ、従業員の雇用が失われ、そして何より路線が廃止になっていくだろう。それが本当に国民のためになるとは、私にはとても思えない。

縮小均衡という「後ろ向きの再建」ではなく、私はむしろ路線を増やす方向の「前向きの再建」を日本航空は選ぶべきではないかと考えている。採算の合わない地方路線を政治的に多く抱えさせられたことが日本航空の経営悪化の大きな原因になったのだから、私の意見は馬鹿げているように思えるかもしれない。もちろん、いまの仕組みのままで路線を拡大しても赤字が増えるだけだ。

しかし、地方路線の赤字の原因は、空席率の高さと着陸料の高さなのだ。それを解消するためには、まず飛行機を思い切り小型化することだ。日本の航空機は大きすぎる。例えば羽田空港を発着する飛行機の座席数は平均で200席ほどだが、海外の主要空港では100席程度なのだ。私は、狭い日本では、もっと小さくてもよいと思っている。極端に言えば20席程度の小さな航空機を頻繁に飛ばせば、地方間の路線でも、常に満席に近い予約を取れるだろう。そうした小規模路線は、競合がないから、割引をしなくてもよいので、旅客収入の単価を引き上げることも可能になる。

また、空港整備特別会計の豊富な資金を使って、これまで99もの空港を作ってきてしまった政府にもJALの経営悪化の責任がある。地方空港を作って政治力で赤字路線を作らせてきたからだ。ただ、JALの経営再建で、路線撤退が加速化すれば、廃墟となる地方空港が続出するだろう。そうなるくらいだったら、思い切った着陸料の減額をして、地方空港を活用したほうが地方経済のためにも、航空会社にとってもよいだろう。

地方路線で小型機を頻繁に飛ばす。そうした前向きのリストラをすれば、運航要員を増やすことも可能になって、安い賃金の人材を活用することができ、収益は大きく改善するだろう。

JAL再生タスクフォースは日本航空の西松遥社長の退任を求める方針だと言われている。西松社長の年収は960万円、電車通勤をして、社員食堂で昼食を食べている。その姿がアメリカのニュースで流された後、アメリカの大手自動車メーカーや金融機関の役員たちが得ている厚遇と比べて、何と質素なことだろうとアメリカ国民の間に賞賛の声が広がった。

「世界で最も素晴らしい大企業のCEO」と呼ばれ、航空輸送事業に精通した西松社長を解任した後は、JAL再生タスクフォースのメンバーが経営陣として乗り込んでいく可能性が高い。そのとき新経営陣が受け取る報酬は、おそらく西松社長の10倍以上だろう。

いまだに日本の企業経営というのは、サバンナに生きる草食動物と同じなのだと思う。少しでも怪我をして動きが鈍ると、あっという間に、猛獣たちに襲われてしまうのだ。

※編集部:この原稿は09年10月19日にご入稿いただいたものですので、状況が変化している場合もあります。

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎