見つかる!儲かる!助かる! 経営者の味方 WizBiz(ウィズビズ)

WizBiz:HOME >  ビジネスマガジン >  ビジネスコラム >  森永卓郎の経済探偵録  >  不透明さを増すアメリカ経済  詳細

森永卓郎の経済探偵録
不透明さを増すアメリカ経済

更新日:2009年08月19日

ブッシュ前大統領が残した負の遺産があまりにも大きいため、アメリカ経済の早期回復に暗雲が立ちこめ始めているという。森永氏は、アメリカの経済が復活するためには、どのような経済対策が望ましいのか、そのカギとなる考え方を示している。
 


 
 森永卓郎氏 顔写真
 
 
バックナンバー
 
新しい雇用システムをどのようにデザインするのか
2009年07月15日
こんな銀行があったっていいじゃないか
2009年06月17日
景気は底打ちしたのか
2009年05月19日
銀行の経営モデルはいかにあるべきか
2009年03月18日
アメリカはどう変わるのか
2009年02月18日
最初から解散する気などなかったのではないか
2008年12月17日
ブッシュ大統領の最大のミス
2008年11月19日
 
バックナンバー一覧
 
 

ドルが再び下落

じわりと円高が進んでいる。4月には1ドル=100円台にまで円安に振れた為替レートが、7月13日には92円60銭まで上昇した。しかし、正確に言うと、これは円高ではない。ドル安だ。

金融危機後の為替を振り返っておこう。リーマン・ブラザーズ証券の破綻が確実になった昨年9月10日の円の対ドルレートは、107円90銭だった。それが12月18日には88円10銭と、3カ月あまりで19円80銭もの円高が進んだ。しかし、金融パニックが収束すると、対ドルレートは、4月7日に100円60銭まで値を戻す。12円50銭の円安だ。ここまでの為替の動きは、対ユーロでもほぼ同じだ。昨年9月10日の対ユーロレートは、152円20銭だった。それが12月4日の117円45銭まで、3カ月たらずで34円75銭もの円高が進んだ。そして、金融パニックの収束とともに、4月7日には135円10銭まで戻している。

問題はその後だ。今年4月7日から7月21日までで、円は対ドルで5円95銭の円高となっているが、対ユーロではわずか95銭の円高にとどまっている。つまり、円が高くなっているというよりも、最近になってドルが再び下落し始めているということなのだ。その背景には、アメリカ経済の早期回復に暗雲が広がってきたことがあるとみられる。

ブッシュ前大統領が残した負の遺産の大きさ

まずは、財政赤字だ。米国財務省が発表した6月の財政赤字は943億ドルと、6月としては過去最大になった。これで昨年10月から9カ月間の累積赤字は、1兆863億ドルだ。このまま行くと、9月までの2009会計年度全体では、米議会予算局の予想である1兆8000億ドルを上回る赤字となる可能性が出てきた。

空前の財政赤字の要因は、税収の落ち込みもあるが、景気失速を防ぐために投じた7870億ドルという巨額の景気対策費用だ。しかし、残念ながらその景気対策の効果は、実体経済に十分には現われてきていない。例えば、米国の6月の失業率は9.5%にまで上昇し、特に自動車産業の拠点であるミシガン州では15.2%という高率になっている。

株価をみても、リーマンショック直前を100%とすると、アメリカのニューヨークダウは、7月20日現在で78.5%と、まだ2割以上低いままだ。なかなか回復しない経済状況を受けて、ワシントンポストの調査によるオバマ大統領の支持率は、7月調査で49%と、前月から6ポイント下落した。

オバマ大統領は、「景気対策は効果が2年後に出るように設計されている」と語って、即効性を求める国民に我慢を求めたが、オバマ政権の景気対策に対する米国民の不信感は高まっている。もちろん、オバマ大統領の経済政策が間違っているわけではない。景気が戻らないのは、ブッシュ前大統領が残した負の遺産があまりに大きいからだ。

4月21日にIMF(国際通貨基金)が公表した『国際金融安定性報告書』によると、今回の金融危機によって、2010年末までに金融機関が被る損失は、世界全体で4兆ドルに達するという。そのうち、米国市場の損失は2兆7120億ドルと、世界全体の約7割を占めている。ちなみに欧州は1兆1490億ドルで、日本は1490億ドルに過ぎない。米国の抱えた損失がいかに大きいかが分かるだろう。

アメリカ経済復活のカギ

米国経済が本格的に立ち直るためには、消費の拡大が不可欠だとよく言われる。しかし、私はそうは思わない。金融バブルの時代に米国民は、所得を先食いをすることで消費を拡大してきた。その結果、米国の消費者が抱える借金は4兆ドルにも達している。まず、やらなければならないことは、この借金の残高を管理可能なレベルまで引き下げることなのだ。

金融危機後の米国で、景気対策として行なわれた戻し税が、消費に回らず、大部分が貯蓄に回ってしまったことを非難する学者は多い。しかし、私はそれで良かったのだと思っている。アメリカ経済復活のカギを握る「着実な消費拡大」は、まず借金の圧縮があって、初めて実現可能になるからだ。ただ、そうなるとアメリカ経済の復活には、相当な時間がかかることになる。

一方で、米国とは対照的に、すでに金融危機を完全に克服し、新たな成長過程に入った国がある。中国だ。4兆元という大規模な経済対策を打ったことの効果もあって、今年4月〜6月期の実質GDPは、年率換算で7.9%成長と、中国政府が最低限必要とする8%成長にほぼ近づいた。株価はもっと順調で、リーマンショック後に急落した上海総合指数は、7月20日には、リーマンショック直前よりも、48.4%も上昇しているのだ。

結局、今の時期になって分かったことは、「カネがカネを生む」方式の金融資本主義は、一度バブルが崩壊すると、手がつけられなくなるほどの被害を受けるということであり、安定して成長するためには、まともな経済政策を採るしかないということなのだ。

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎