経営者の味方「0円ビジネスマッチング WizBiz(ウィズビズ)」

WizBiz:HOME >  ビジネスマガジン >  ビジネスコラム >  森永卓郎の経済探偵録  >  新しい雇用システムをどのようにデザインするのか  詳細

森永卓郎の経済探偵録
新しい雇用システムをどのようにデザインするのか

更新日:2009年07月15日

与謝野大臣は事実上の景気底打ち宣言をした。しかし国民の多くが景気回復を実感していない。森永氏は、その原因は、日本の雇用システムにあると分析する。
 


 
 森永卓郎氏 顔写真
 
 
バックナンバー
 
こんな銀行があったっていいじゃないか
2009年06月17日
景気は底打ちしたのか
2009年05月19日
銀行の経営モデルはいかにあるべきか
2009年03月18日
アメリカはどう変わるのか
2009年02月18日
最初から解散する気などなかったのではないか
2008年12月17日
ブッシュ大統領の最大のミス
2008年11月19日
アメリカ金融危機の本質は何か
2008年10月22日
 
バックナンバー一覧
 
 

実感できない景気の底打ち

6月17日に、与謝野馨財務・金融・経済財政担当大臣が月例経済報告を関係閣僚会議に提出した。そのなかで、景気の基調判断については、「悪化」という表現を7カ月ぶりに削除し、「厳しい状況にあるものの、一部に持ち直しの動きがみられる」と景気回復を示唆する表現に改めた。

会議後の記者会見で与謝野大臣は、「1〜3月が底だった」と、事実上の景気底打ち宣言をした。しかし、国民の多くが景気回復を実感していない。それは雇用が改善していないからだ。4月の有効求人倍率は0.46倍と過去最低を記録、完全失業率も5.0%と、5年5カ月ぶりに5%の大台に乗せている。雇用は底打ちどころか、むしろ悪化しているのだ。

もちろん、雇用は生産に半年ほど遅れて動くので、秋口には改善の糸口がみえてくるとの見方もあるが、今回の不況のなかで、消費がなかなか回復しないのは、国民に将来不安があって、財布のひもを緩めないからだ。そして、その不安の最も大きな原因は、労働者がいつ仕事を失うか分からないうえに、仮に景気が戻ったとしても、安定した雇用が復活する可能性が、ほとんどないという雇用システムの問題だ。実は、そうなったのは、さほど昔の話ではない。


2004年労働基準法改正の是非

1990年代のデフレ不況のなかで、日本の雇用政策に大きな変化が起きた。それは、「円滑な労働移動」を進める政策への転換だ。それまでの雇用政策では、不況時に雇用調整助成金を活用するなどして、できるだけ解雇がなされないように政府が雇用維持への支援をした。しかし、新しく採用された雇用政策は、解雇を防止するよりも、仕事を失った人に、職業訓練や新しい仕事の情報提供をすることなどによって、成長性の高い分野に積極的に労働移動を図ろうとするものだった。

そうした政策の一環として、2004年に労働基準法が改正され、それまで上限1年だった有期雇用契約の上限が、3年に延長された。契約期間が延長されたというと、雇用が安定したと思われがちだが、そうではない。それまでは1年を超える雇用契約は、期限の定めのない雇用、すなわち終身雇用にしなければならなかった。それが、契約期間3年までは、契約期間満了で雇用を終了できるようにしたのだ。労働基準法改正は、明らかに雇用の流動化策だったのだ。

また、同じ2004年から、製造業への派遣労働も解禁された。この規制緩和の目的も、いつでも切れる労働力を増やすということだった。その目的は、今回の景気後退局面で、次々に派遣切りによる雇用調整が行なわれたことをみても、見事に達成されたと言ってよい。しかし問題は、そうして派遣切りに遭った労働者が、職業訓練や職業情報の提供を受けて、よりよい労働条件の新しい仕事に再就職できたのかということだ。

現実には、特に不況時には、転職によって労働条件を改善することは極めて困難だ。だから、労働者の立場を考えれば、転職の促進よりも、雇用の維持のほうが望ましいのは明らかだ。

終身雇用制度を望む新入社員

6月22日に産業能率大が新入社員を調査対象としたアンケートの結果を発表したが、「終身雇用制度を望む」新入社員は、前年より7.1ポイント増えて73.5%となり、1990年の調査開始から初めて7割を超えた。派遣切りの厳しい状況をみて、若者でさえ安定を強く求めるようになっているのだ。
しかし、不況時に余剰人材を抱えていたら、国際競争に敗れて、企業経営が維持できないとする産業界の意見は根強い。そこで、デンマークのように徹底的に再就職の支援をすれば、労働者の不安は減らすことができるはずだと主張するのだ。

ただ、再就職支援の強化には膨大なコストがかかるし、困難だ。だから、私は雇用の弾力性を高めるのではなく、賃金の弾力性を高めるほうが望ましいと考えている。会社をクビになるのと、給料を下げられるのと、どちらがマシかと考えれば、給料を下げられたほうがマシだと考える労働者の方がずっと多いはずだ。企業にとっても、雇用を続けていれば、景気が戻ったときに、また新しい労働者を採用して、一から教育訓練を施す必要がなくなる。

実は、私がシンクタンクに勤めていたときに、終身雇用はそのままにして、完全な成果連動型の賃金体系を導入した。その結果、年収の安定性は著しく損なわれたが、それで大きな混乱が起こるようなことはなかった。稼げなかったときには自分たちにも責任があることを研究員が自覚していたし、同時に、稼げるようになったら、いつでも報酬に反映されることを知っていたからだ。

ただし、このシステムを適用するためには、2つの大切な前提条件がある。
第1は、経営情報をすべての従業員に公開して、経営の透明性を高めることだ。会社の経営状態が分からずに賃下げに応じよと言っても納得できないのは当然だ。もうひとつは、業績が悪化したときには、現場だけでなく、経営側もきちんと責任を取るというルールを作っておくことだ。役員の高額報酬や株主への配当をそのままにして、経営不振のツケを現場にだけ回しても従業員が納得するはずがないからだ。

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎