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森永卓郎の経済探偵録
こんな銀行があったっていいじゃないか

更新日:2009年06月17日

来年から、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式が放出始まる。森永氏は、もう一度郵政民営化の検証をきちんすべきだという。そもそも上場することで、国民にメリットがあるとは思えないからだ。
 


 
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予定より減ったとはいえ大きな黒字

日本郵政グループが今年3月期、民営化後初の通期決算を発表した。純利益は、ゆうちょ銀行が2293億円、かんぽ生命が383億円、郵便事業が298億円、そして持ち株会社の日本郵政が1090億円の合計4227億円となった。

グループ全体の純利益は、民営化後に下方修正した利益目標の4600億円を達成できなかった。このため、郵政事業の経営、特に来年から始まるゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式放出に懸念を示す意見も出始めた。両社の純利益が目標利益に遠く及ばない状況だと、予定通り上場できないのではないかと言うのだ。

私は、上場はしばらく待ったほうがよいと考えている。それは両社の経営がまだ独り立ちしていないからというわけではない。そもそも上場することで、国民にメリットがあるとは思えないからだ。

まず、本当にゆうちょ銀行、かんぽ生命の経営はよくないのだろうか。例えば、ゆうちょ銀行のライバルとなるメガバンクの決算がどうだったのかをみよう。今年3月期の決算は、3大メガバンクが揃って赤字で、最終赤字の額は、みずほFGが5888億円。三井住友FGが3734億円、三菱UFJFGが2569億円だった。最終赤字の合計は、1兆2191億円に達している。

メガバンクが軒並み赤字に陥った原因は、株式やその他の金融商品への投資で損失が出たことに加え、融資先の経営悪化で不良債権処理費用が大きく膨らんだことだ。一方、ゆうちょ銀行は、資金を国債中心に運用しているので、金融危機の影響をほとんど受けなかった。だから、予定より減ったとはいえ、大きな黒字を出すことができたのだ。

メガバンクとゆうちょ銀行のどちらが正しいという問題ではない。積極的に収益を確保しにいく民間銀行と地味に安全な運用を心掛けたゆうちょ銀行というビジネスモデルの差があっただけだ。いまは、メガバンクの経営はよくないが、景気が回復軌道に乗れば、メガバンクは再び大きな利益を出すだろう。

ただ、ゆうちょ銀行の完全民営化を進めるということは、ゆうちょ銀行のビジネスモデルが、メガバンクと同様のものに変わっていくということを意味する。私には、それがよいことだとはとても思えない。いまの郵貯銀行のように安全第一で、愚直に運用する手堅い銀行があってもよいと思うのだ。

もう一度郵政民営化の検証を

私が、もうひとつ郵政の完全民営化を再検討したほうがよいと思う理由は、はたして郵政民営化が国民の期待する効果をあげる方向に向かっているのかという点だ。

2004年11月25日から12月5日に、小泉内閣は郵政民営化についてのアンケート調査を、メールマガジンの読者に対して行なった。メルマガの読者だから多少のバイアスはかかっていると思うが、1万5160の回答者のなかで「郵政民営化に期待する」が69%、「期待しない」が19%と、圧倒的に民営化に期待する国民が多かった。しかし、民営化後どうなったか。6月号の『リベラルタイム』が「『失敗』の懸念が消えない郵政民営化」という記事のなかで、面白い指摘をしている。

<以下『リベラルタイム』09年6月号から引用>
日本郵政が発足して約1年半、同社が昨年実施した調査によれば、「民営化前より全体的によくなった」は39%、「悪くなった」は8%だが、JP総合研究所の調査では、貯金・送金等の窓口サービスが「よくなった」18%、「悪くなった」19%、配達等の郵便業務も、「よくなった」16%、「悪くなった」38%となり、民営化の評価は定まっていない。
<以上引用>

私は、評価が定まっていないというよりも、国民が自らの誤りを認めたくないのだと考えている。2005年の郵政選挙で、国民は郵政民営化に対して圧倒的な支持を与えてしまった。しかし、現実をみると、期待とは違う方向に郵政事業は向かっている。だから総論では賛成でも、個別事業の評価では、厳しい目を向けているのだろう。

例えば、小泉内閣のメルマガアンケートで、「郵政民営化のどのような効果に期待しているか」という質問で、「営業時間の延長」と答えた人が63%と、圧倒的に多かった。ところが、民営化前までは、集配郵便局すべてに設置されていた時間外窓口が、郵政民営化後は、集配郵便局のなかで郵便物の区分業務を行なう統括センターの郵便局だけに限られるようになってしまった。

その他、地帯区分の変更で、沖縄発着のゆうパック料金が高くなったり、定額小為替の手数料が劇的に高くなったりと、民営化で生じた変化は、消費者にとってむしろ厳しいものが多かったのだ。

今後、株式が公開されれば、利益拡大を求める株主からの圧力が強まる。そうなれば、消費者へのしわ寄せは、より厳しいものになっていくだろう。株主に外資が加わっていけば利益拡大要求はさらに強まるのは間違いないだろう。だから、その前に、もう一度郵政民営化の検証をきちんとすべきなのだ。

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎