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森永卓郎の経済探偵録
景気は底打ちしたのか

更新日:2009年05月19日

G7において、「経済活動は年内に回復を開始するだろう」と明るい経済見通しが示された。著者はその他の統計数値を冷静に分析すると、日本経済が欧米に先駆けて景気を復活させる可能性が出てきたという。
 


 
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日本の金融商品による損失はアメリカの18分の1

4月24日に行なわれた主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が、声明のなかで「最近の指標には景気後退速度の鈍化やいくらかの安定化の兆候を示すものも出てきている」として、「経済活動は年内に回復を開始するだろう」と、金融危機以降初めて明るい経済見通しを示した。もちろんG7は、「経済の力は引き続き弱く、下方リスクが継続している」としており、ほとんどのエコノミストも、景気復活には懐疑的だ。しかし、これまで「フリーフォール」状態だった世界経済に、底打ちの気配がみえてきたことは、間違いないだろう。

そうしたなかで、日本経済が欧米に先駆けて景気を復活させる可能性が出てきた。そもそも、この1年半の日本の景気の失速は、原油高と穀物高が原因だった。しかし、昨年夏のピークから原油価格は3分の1になり、穀物価格は半分になった。日本経済が海外から10兆円以上の課税されているのと同じ効果をもたらした資源高の影響は、完全に消滅したのだ。

そして、もうひとつ、欧米経済の足をいまだに大きく引っ張っている金融バブル崩壊による影響についても、日本はさほど大きな損害を受けていなかったことが明らかになった。

4月21日に国際通貨基金(IMF)が発表した「世界金融安定性報告」によれば、米国、欧州、そして日本で生み出された融資や証券化商品に関する損失は、07年から10年までの累計で、約4兆ドル(約400兆円)に達するとした。そのうち、米国内で作られた融資や証券化商品などによる損失は、2兆7120億ドル(約271兆円)と全体の7割近くにのぼっているが、欧州発の損失は1兆1930億ドル(約119兆円)、日本は1490億ドル(15兆円)との見通しとなっている。日本の損失は世界の4%、アメリカの18分の1、欧州の8分の1に過ぎないのだ。

重症の欧米経済と比べると、日本経済は軽症だ。そして、世界経済の落下が止まった。そうなると、日本の景気が欧米に先駆けて底打ちしてもおかしくはない。実際に、そう主張するエコノミストも現われている。景気循環学会理事も務める景気循環論の第一人者で三菱UFJ証券景気循環研究所の嶋中雄二所長だ。

嶋中所長は、「景気はすでに2月に底打ちしている」と主張している。嶋中所長の主張では、景気の山・谷の判定は機械的なものだという。政府は、景気動向指数の一致指数が50%を上回った時が谷、下回ったところが谷という判定をしており、2002年1月の谷も、2007年10月の山も、その基準で判定されているという。

景気動向指数の一致指数は、鉱工業生産指数や大口電力使用量、有効求人倍率など11の景気指標を原則として3カ月前と比較し、改善した指標の割合を指標としている。つまり、過半の指標が改善していれば景気は上昇、そして過半の指標が悪化していれば下降と判断するのだ。

嶋中氏は、この11の指標のうち7つが生産関連であることから、生産が増えるようになれば、景気は上昇に転ずるとしている。そして三菱UFJ証券景気循環研究所の推定によると、生産活動は2月を底に上向いているので、景気は上昇過程に突入したと考えているのだ。もちろん、前年と比較すると生産水準は、まだ大きなマイナスなのだが、在庫調整が一段落して、生産が戻り始めているのは事実だ。

ミクロレベルでも明るい動き

今後、景気が回復に向かうのか、それとも踊り場から再び下降に向かうのか。それは我々の生活に大きな影響を与える。そこで、もう一度冷静に統計をみてみよう。4月1日に日銀が発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)によると、大企業・製造業の業況判断指数(DI)は▲58と、石油危機後の74年5月に記録した▲57を下回って、34年ぶりに戦後最悪の記録を更新している。

また、日本自動車販売協会連合会が発表した3月の国内新車販売台数(軽自動車を除く)も、前年同月比31.5%減と、8カ月連続の前年割れとなった。さらに、工作機械受注額は、前年同月比84.5%減と、過去最悪となった1月の記録をさらに更新した。

こうしてみると、景気の現状を示す数字は、過去最悪のものが目立っているのだが、日銀短観は、確かに現状こそ最悪だが、企業に6月の見通しを聞いた結果のDIは、7ポイント上昇の▲51と、06年9月以来11期ぶりの改善となっている。工作機械受注についても、3月の数字が悪いのは、昨年3月の数字が高かったことの反動の面が大きく、前月比でみると7.7%増えている。さらに、景気ウオッチャー調査では、3月の現状判断指数が、前月比べ9.0ポイント上昇して、28.4となり、3カ月連続で改善しているのだ。

さらに、ミクロレベルでも、明るい動きが見られるようになっている。例えば、5月18日に発売されるトヨタの新型プリウスの受注は、1カ月で5万台に達したと言われている。2月に発売されたホンダのインサイトも発売1カ月で、当初計画の3.6倍の1万8000台を受注していて、ハイブリッド車が、自動車会社の救世主になりつつある。

液晶テレビも、政府のエコポイントの導入方針発表で、少し勢いを落としたが、3月の販売は前年比で3割を超す勢いだ。そして、価格下落でマンションのモデルルームを訪れる顧客も増えている。

このまま行けば、日本が景気拡大に向かう可能性は十分あると思われるのだが、世界経済はまだ2つの爆弾を抱えている。ひとつは、豚インフルエンザへの警戒レベルがフェーズ5(09年4月30日)に引き上げられ、新型インフルエンザになったことで、世界的流行の可能性が出てきたことだ。もうひとつはゼネラルモーターズに連邦破産法が適用される可能性があることだ。どちらも、現実のものとなれば、せっかくの景気浮上のチャンスも幻に終わってしまうかもしれない。

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎