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森永卓郎の経済探偵録
銀行の経営モデルはいかにあるべきか

更新日:2009年03月18日

米シティグループが事実上破綻した。この事件は、小泉構造改革のなかで示された銀行経営のモデルが破綻したことを意味すると、筆者は言う。したがって、アメリカの銀行経営を手本として、構造改革の名のもとに日本で行なわれた不良債権処理自体に大きな疑問が発生することに。
 


 
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構造改革派の人たちの言い分

2月27日に米国財務省とシティグループが、政府が保有するシティグループの優先株の大部分を議決権のある普通株に転換することで合意した。この結果、シティグループへの政府の出資比率は36%となり、過半の議決権を握る国有化にまでは至らないものの、重要事項の決定にすべて国の同意が必要な「公的管理」の下に置かれることになった。公的管理の下に置かれることになってシティグループの株価は39%も下落し、シティグループの経営は事実上破綻したとも言える。

しかし、日本の日興コーディアルを傘下に置くなど、破竹の勢いで業績を拡大してきたシティグループの行き詰まりは、銀行経営のビジネスモデルを問い直す必要性を投げかけた。シティグループの経営の行き詰まりは、小泉構造改革のなかで示された新しい銀行経営のモデルが破綻したと言えるからだ。

バブル崩壊後のデフレ経済のなかで、日本の銀行は莫大な不良債権を抱え、厳しい経営状況に追い詰められていた。地価の下落で、企業から取っていた担保不動産の価額が下落して融資額を下回り、いわゆる「担保割れ」の状態になっていたからだ。

竹中金融担当大臣(当時)は、「不良債権処理の加速化」を掲げ、担保割れとなった融資先の「処理」を銀行に厳しく求めた。98年7月に大手19行に集中検査を行ない、長銀と日債銀を一時国有化した。その後も03年5月のりそな銀行の実質国有化、そして05年10月のUFJホールディングスの三菱東京フィナンシャルグループへの実質的な吸収合併と、銀行の整理、淘汰が続いた。

しかし、本当にそうした不良債権先の企業や銀行の「処理」が、そもそも必要だったのかということについて、私はいまなお大きな疑問を持っている。なぜなら、当時、不良債権先と呼ばれた融資先企業の経営状態は、必ずしも悪くなかったからだ。

例えば、不良債権の象徴と言われたダイエーは、ほとんどの会計年度で黒字決算をしていた。ところが金融行政はたとえ黒字でも、企業の生き残りを許さなかった。結局、ダイエーも最終的には産業再生機構送りとなり、日本最大の小売業は、生体解剖されて、投資ファンドなどに切り売りされてしまったのだ。

それでもよいと構造改革派の論者たちは言い切った。担保割れを起こしたのは、銀行がきちんとリスク管理をせず、無謀な融資を繰り返したからだ。不動産を担保にすることでしか融資のリスクを取れない銀行は、つぶれても構わないというのが、構造改革派の考えだったのだ。
「アメリカの銀行は、融資先をきちんと審査し、リスクを管理しているから、十分な収益をあげている。それを日本の銀行も見習え」
というのが、構造改革派の人たちの言い分だった。

まともなことをやっていた銀行を「処理」

しかし、アメリカの銀行の収益が大きかったのは、銀行のリスク管理能力が高かったからではなく、アメリカ経済がバブルだったからだ。シティグループの経営が追い詰められた最大の原因は、シティが大量の住宅ローン証券を保有しており、その価格が大きく下落したためだと言われている。

2006年秋から、アメリカの不動産価格が下落を始め、いまはピーク時から2割強下がっている。日本のバブル崩壊時には地価は半額以下に下落している。アメリカの地価下落はそれよりずっと小さいのに、なぜ銀行の経営がこれだけ厳しくなっているのか。それは、アメリカの住宅ローンが「ノンリコースローン」といって、借金返済に行き詰った場合でも、買った家を放棄すれば、借金そのものを棒引きにすることができるという仕組みを採っているからだ。

日本の場合は家を手放しても、売却代金で借金を返済しきれなければ、差額分が借金として残る。ところが、アメリカの場合は借金が残らないのだ。つまり、住宅価格が下落した時に被害は、日本の銀行よりもアメリカの銀行のほうがずっと大きくなる仕組みになっていた。それでも、アメリカの銀行が順調な経営を続けてきたのは、不動産価格が下がらなかったからなのだ。

銀行は、預金者から元本と利払いを保証して資金を集めている。だから、基本的には何があっても損をしないような資金運用をしなければならない。しかし、それを可能になるのは、(1)融資の際に十分な不動産担保を取る、(2)その不動産担保が値下がりしない、という2つの条件が同時に満たされたときだけなのではないだろうか。

アメリカの銀行は、もともと十分な不動産担保を取っていたわけではないが、金融技術の「進歩」で、テコの原理を用いることで実質的に担保の価値を膨らませていた。だから、地価が下落したときのマイナスの影響も膨らんでしまったのだ。地価の下落を止めないと、今回の金融危機は乗り切れない可能性が高い。そのためには、インフレを起こすしかないというのが、今回のアメリカの金融危機の結末になるのではないだろうか。

それにしても、日本は不動産担保を取って融資をするという一番まともなことをやっていた銀行を「処理」してしまった。長銀の大野木元頭取は、長銀破綻から10年の歳月を経て、経営責任の無罪を勝ち取った。しかし、アメリカ型の誤った銀行経営を導入しようした政府関係者や御用学者などは一切責任を追及されていない。

いま必要なことは、本当に国民のために望ましい金融システムとはどのようなものかを、再度きちんと議論しておくことだろう。

 

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎