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森永卓郎の経済探偵録
アメリカはどう変わるのか

更新日:2009年02月18日

全米を熱狂させたオバマ大統領の就任式。筆者も翌日に早朝からの生放送を控えながら、演説を最後まで聴いていたという。
しかし、いざ熱狂から冷めてみると、オバマ氏が大統領に就任しただけで、アメリカが抱える問題の解決が約束されるほど、事はそう単純ではないことに、あらためて気づかされたという。
 


 
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金融機関の問題から個人の問題に

1月20日のオバマ大統領の就任式には、200万人以上の観衆が集まり、またテレビ中継をみながら全米が熱狂した。あらゆる人種の人が、金持ちも低所得者も、男も女も、老いも若きも、オバマ新大統領が「チェンジ」してくれる。そんな期待に、アメリカ国民は胸を膨らませていた。じつは、私も同じだった。朝に出演する生放送が控えていたにもかかわらず、眠い目をこすりながら、結局オバマ大統領の演説を最後まで聴いてしまった。

新自由主義政策の下で、世界に戦火を広げるとともに、経済面でも世界に金融戦争を広げたブッシュ大統領の政権が終わるのだから、私は明るい未来を期待していた。新自由主義を批判するオバマ大統領のことだから、経済面でも、真面目に働く人々を正当に評価する経済社会を作ってくれるだろう。軍事面でも、オバマ大統領はイラク戦争に一貫して反対していたから、世界に平和をもたらしてくれるだろう。私は素朴にそう思っていた。

しかし、就任式の熱狂から冷めてみると、どうやら事はそう単純ではないということが明らかになった。まずは経済だ。

オバマ大統領は、就任演説で「経済状況は悪く、その原因は一部の人々の強欲と無責任にある」と発言し、今回の経済危機が新自由主義・金融資本主義の暴走に基づくものであることを認めた。また、「試練は数多く、そして深刻なものだ。短期間では解決できない」と経済の立て直しには相当の時間がかかることも認めた。

現実に、2月2日に商務省が発表したアメリカの08年10〜12月期の実質GDP成長率は、年率換算で前期比3.8%減という非常に厳しいものとなった。82年1〜3月期以来、約27年ぶりの大幅なマイナス成長だ。

ただ、さらに深刻なのがその中身だ。これまでの金融危機はサブプライムローンを組み込んだ証券化金融商品を保有する金融機関の問題だった。イギリスの中央銀行であるイングランド銀行が昨年10月末に出した推計では、損失規模は世界で2兆8000億ドル、日本円で260兆円程度となっているが、先進各国の膨大な公的資金注入で損失処理の目処がつきはじめている。

しかし、今回のアメリカGDP統計で、GDPの7割を占める個人消費は、3.5%減と前期に続いて低迷を続けており、特に耐久消費財の消費は22.4%減と激減しているのだ。

このことは、アメリカの金融危機が、金融機関の問題から個人の問題に広がり始めたことを示唆している。アメリカでは、住宅ローンを借りて取得した住宅の評価額が上昇すると、評価上昇相当額を、ローンを借りた銀行から使途無制限で借り入れることができる「キャッシュアウト」という仕組みをみっている。

また、アメリカ国民のなかには、クレジットカードをたくさん持って、ひとつのカードの支払いが難しくなると、別のクレジットカードでキャッシングして支払いに充てるという自転車操業を行なっている人も多い。そうしたなかで、アメリカの家計が抱えた借金は400兆円に達している。

そしていま、企業の急激な業績悪化とともに、リストラの嵐が吹き荒れ始めた。職を失った労働者は、借金の返済やクレジットカードの支払いができなくなった。そのため金融機関の不良債権が増加し、せっかく峠が見えてきた金融機関に危機が再燃するという悪循環が生まれているのだ。

本当は、アメリカがデフォルト宣言をして、借金を棒引きにしてしまうのが一番楽なのだが、超大国アメリカにその選択肢はない。結局、アメリカ人がライフスタイルを根本的に変えて、節約生活をしながら借金返済に勤しまないと、この状況は改善できないのだ。消費が大きく抑制されたのは、その第一歩とみてよいだろう。

世界を幸福にするためには

オバマ大統領は、すでに総額8190億ドル(約73兆円)の大型景気対策を議会に提出している。高速道路や通信網整備などの公共事業、自動車の抜本的な省エネルギー化など環境産業を育成するためのグリーン・ニューディール政策など、景気対策の方向性は正しいし、規模も十分とは言えないまでも、かなりの大きさだ。今年度、来年度合わせて、真水の財政出動が12兆円に過ぎない日本とは大違いだ。

ただ、そうした「正しい景気対策」が行なわれても、アメリカの場合、個人の抱える借金があまりに大きいために、それを普通の水準にまで減らすためには、相当長い時間がかかるとみて間違いないだろう。そのことは、発足したばかりのオバマ政権に、4年後、政権の危機が訪れることを意味する。

アメリカ人はオバマ大統領の誕生に熱狂し、期待した。しかし、その期待が裏切られたとアメリカ国民が思ったとき、オバマ大統領は再選の危機を迎えることになるだろう。
そのとき、一番心配なのは、オバマ大統領が選挙を有利に運ぶために戦争を起こす可能性だ。

先日、テレビ朝日の「朝まで生テレビ」で、国際情勢の専門家たちと話をしたのだが、皆が口を揃えていたのは、「オバマ大統領は、平和主義者だ」という私の素朴な思い込みは間違っているということだった。確かに、そのことは就任演説でも明らかだった。

例えば、オバマ大統領が選挙前から一貫して主張してきたイラクからの米軍撤退については、「イラクをイラク国民に委ねる」と言っただけで撤退という言葉を使わなかった。これまでアメリカが行なった戦争も、太平洋戦争やベトナム戦争も含めて、国のために戦った人たちに畏敬の念を示すという形で肯定した。

「先人がミサイルや戦車を使うのみならず、信念と確固たる同盟をもってファシズムや共産主義に勇敢に立ち向かったことを思い出そう」と述べて、戦争を否定していないのだ。むしろオバマ大統領は、大義さえあれば、いつでも戦争をする用意があると考えたほうがよいだろう。

もちろん私は、どんな理由があっても戦争を起こすことには反対だ。戦争をすれば確実に、膨大な人命の犠牲と財産の喪失が生まれるからだ。ただ、残念ながらアメリカの歴史をみると、民主党政権が戦争を忌避しているという事実はないし、むしろ定期的に戦争が起こされているというのが現実だ。イラク戦争の開戦からすでに6年、オバマ大統領の再選時期には、ほぼ10年という歳月が流れることになる。再び戦争が起こっても不思議ではない時間が経つのだ。

だから、いまこそ世界は、そうした戦争を避けるため、アメリカを含む世界経済の早期回復への努力をしなければならないだろう。アメリカ経済が長期低迷するのは、バブルに踊った自己責任だという議論は、世界を幸福にしないのだ。

 

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎