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森永卓郎の経済探偵録
ブッシュ大統領の最大のミス

更新日:2008年11月19日

任期切れ間近のブッシュ大統領が行なった金融政策のミスは、アメリカ経済にとっては大きな傷手であるが、長期的な視点からみれば世界経済にとっては結果的にはよかったのではないかと、森永氏は分析する。それはどういうことなのだろうか。
 


 
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もしリーマン・ブラザーズを救済していたら

ブッシュ大統領は09年1月の任期切れを前にして、世界を変えてしまう最大のミスを犯した。そのミスとは、9月15日にリーマン・ブラザーズを経営破綻させてしまったことだ。破綻をきっかけに、アメリカの虎の子だった金融資本主義が音をたてて崩れてしまったからだ。

リーマン・ブラザーズの経営が行き詰っていることは、市場関係者のほとんどが知っていた。しかし、まさか破綻するとは誰も思っていなかった。どこかの銀行が救済に入ると考えていたのだ。しかし、救世主の有力候補だったバンク・オブ・アメリカがメリルリンチの買収に回り、すでに体力の衰えていた他の銀行から手が上がることはなかった。後は、政府が救済するかどうかだったが、ブッシュ大統領の判断は、新自由主義の考え方そのもの、つまり「市場に政府が介入すべきでない」ということだった。

もし、そこでアメリカ政府がリーマン・ブラザーズを救済していたら、アメリカの金融資本主義がこんなに激烈な壊れ方をしなかっただろう。ブッシュ大統領の評価が地に落ちたりすることはなかっただろうし、大統領選挙で共和党のマケイン候補が勝つ可能性も十分あっただろう。ただ、アメリカの繁栄を支えてきた信用バブルが一気に崩壊し、金融資本主義そのものが瓦解したことは、結果的にはよかったのではないかと私は思っている。

カネにカネを稼がせるという仕組みの魔力

「カネにカネを稼がせてはならない」というのは、実は昔から世界中で守られてきた「モラル」だった。いまでもイスラム教では金利を取ることを禁止しているし、中世までのキリスト教も金利を取ることを許さなかった。当時の高利貸しの地位は、牛馬と同じだったのだ。日本では、つい最近までカネを誇示することは、最も下品なこととされていた。だから、金持ちは着物の裏地にお金をかけていた。

なぜ、そうした価値観が広く行きわたっていたのかと言えば、「カネはカネを稼がない」という厳然たる事実があるからだ。新たな付加価値は、働くことによってのみ生まれる。だから、人は働いてカネを稼ぎ、その範囲内で暮らさなければならないのだ。

ところが、カネにカネを稼がせるという仕組みには、相当な魔力があるようだ。10月18日にブッシュ大統領が、キャンプデービッド山荘で、フランスのサルコジ大統領、欧州連合(EU)のバローゾ欧州委員長と会談した際にも、ブッシュ大統領は金融資本主義への未練をみせた。サルコジ大統領が国際金融体制の総点検を行ない、金融規制を求めたのに対して、ブッシュ大統領は「民主資本主義の基盤、すなわち自由市場と自由企業体制、自由貿易へのコミットメントを損ってはならない」と、これまでの新自由主義との決別を拒否したのだ。会談は実質的に物別れだったと言ってよい。

しかし、サルコジ大統領は、次への布石を打っていた。会談の後、新興国を含めた金融サミットを大統領選挙の後の米国で、11月中の早い時期に開催したいと述べたのだ。サルコジ大統領は、ブッシュ大統領と話をしても埒が明かないので、大統領選挙でオバマ氏が勝利するのを見込んで、金融サミットを大統領選の後に設定したのだろう。オバマ大統領の就任は来年1月20日だが、大統領選の後になればブッシュ大統領は死に体になる。オバマ氏は大統領選挙の初期から一貫して、投機資本を規制する必要性を説いていた。その意味では、サルコジ大統領と方向性を共有できるのだ。

結局、G20金融サミットは11月15日にワシントンで開催されることになった。このサミットでは国際金融についての「改革原則」が採択されることになっている。その内容はまだ明らかではないが、おそらく投機資本を規制する方向性が打ち出されるはずだ。サッチャー政権の金融ビッグバンに始まった金融戦国時代は、ここで幕を下ろすはずだ。

暗雲立ち込めるアメリカ経済の先行き

しかし、金融資本主義が終焉を迎えた後のアメリカ経済には、暗雲が立ち込めている。金融危機はそう簡単に収まらないからだ。そもそも、いまのアメリカの金融危機は、サブプライム・ローンの問題をとうに通り過ぎている。サブプライム・ローンの焦げ付きに伴う損失は20兆円台と見込まれるが、世界の金融機関が自己資金で行なった損失処理は30兆円を超えているからだ。数字の上ではサブプライム・ローンの処理は終わっているのだ。それなのに、アメリカの大手証券会社が軒並み経営危機を迎え、アメリカ政府が70兆円もの救済資金を準備しているのは何故か。それは、損失がサブプライム・ローン以外にも広がっているからにほかならない。

サブプライム・ローン証券に自動車ローン、クレジットカードのローン、一般の債券などを組み合わせたCDO(債務担保証券)、大きなレバレッジをかけた不動産投資証券、そして債務支払いの保証人になることと引き換えに保証料を受け取るCDSなど、アメリカは金融システムを脅かす爆弾を抱えている。不動産価格の下落がまだ続いている以上、そうした金融商品から新たな損失が生まれてくる可能性は高いのだ。

しかし、そのこと以上に問題なのは、金融危機が銀行の住宅ローンに及んでいくことだ。アメリカでは、住宅ローンの担保に入れた住宅の評価額が上がると、評価額の増加分を、住宅ローンを借り入れている銀行から引き出せる「キャッシュアウト」という仕組みがある。2006年までの10年間でアメリカの住宅価格は2倍になった。

そのためアメリカ国民は住宅が値上がりするたびに、キャッシュアウトし、それを住宅の改装や車や大型テレビの購入にあててきた。その巨大な消費がアメリカの成長を支えてきたのだが、キャッシュアウトしたカネは、天から降ってきたのではなく、単に借金を増やしただけだった。そこに2年前からの不動産価格の下落が襲った。不動産価格が2割以上下落してしまったのだ。それは、単にキャッシュアウトを不可能にするだけではなく、住宅ローンが不良債権化することを意味している。

アメリカはノンリコースローンと言って、担保にいれた不動産を放棄すれば、その後のローンの支払は免除される。今後住宅ローンの支払いができない借入者が続出すれば、金融機関に直接大きな損失がでるだけでなく、不動産価格のさらなる下落を招いて、不動産を担保として組み込む様々な金融商品の価格が再び下落することになる。つまり、金融機関の危機が個人に飛び火し、さらにそれが金融機関に帰ってくるのだ。

結局のところ、アメリカは、稼いだ以上に消費してきたことのツケが回ってくるということなのだ。だからアメリカの金融危機は相当長期化するだろう。それを解決する方法は、だだひとつ。借金を働いて返すということだ。しかも深刻なのは、今後ドルが安くなっていったとしても、アメリカには、輸出ドライブがかかりにくいという事情だ。ミサイル、航空機、ソフトウエアなど、アメリカが得意とする製品は、安くなったから売れるという性質のものではない。だから、アメリカ国民の長い耐乏生活は避けられないのだ。

ブッシュ大統領の政策ミスは、金融資本主義に引導を渡し、まともな経済への回帰のきっかけを作ったという意味で、長期的には世界経済に大きな貢献をしたと言えるだろう。しかし、それはアメリカ国民にいばらの道を歩ませることになったとも言えるだろう。

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎