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森永卓郎の経済探偵録
最初から解散する気などなかったのではないか

更新日:2008年12月17日

ワンポイントリリーフだったはずの麻生内閣が年を越しそうです。金融危機を理由に解散総選挙もせず、そして第2次補正予算案も提出することなく総理の座にとどまっています。森永氏はひとつの仮定を置いてみると麻生総理の言動をすべてうまく説明できるといっています。
 


 
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定額給付金、やらないよりはまし

11月25日、麻生総理は、第2次の経済対策の予算面での裏付けとなる第2次補正予算案を臨時国会ではなく、年明けの通常国会に提出することを正式に決めた。

第2次の経済対策は、真水の規模が5兆円と小さく、特にその中心となっている定額給付金については、総額が2兆円と4人世帯でも6万4000円にしかならないため、景気浮揚効果はあまり期待できない。しかし、景気は厳しさを増しているから、定額給付金もやらないよりはましだし、何より「生活対策」と名付けられた第2次の経済対策に含まれる中小企業融資への信用保証枠の拡大や政府系金融機関による融資の拡大は、年末の資金繰りに苦しむ中小企業にとって重要な施策なのだから、確実に年内に実施すべきだった。

ところが、補正予算案の臨時国会への提出を見送ったために、年内の実施が不可能になっただけでなく、年度内の実施まで危ぶまれる状況になってしまった。

11月15日に閉幕したG20金融サミットでは、サミット参加国が、即効性のある財政出動を行なうほか、すべての金融市場や商品を適切に規制・監督することが宣言に盛り込まれた。金融資本主義の下で野放しにしてきた投機資金を封じ込め、各国が協調して財政出動や金融緩和を行なうことで、世界経済の安定を取り戻そうというのだ。

実際、各国は金融危機克服のための大胆な政策に取り組んでいる。例えば、米国連邦準備制度理事会(FRB)は、11月25日に住宅ローン担保証券(MBS)や自動車ローンなどを担保とする証券などを買い取ることを柱とする総額8000億ドル(77兆円)の資金供給策の実施を発表した。資金の一部は、先に成立した金融安定化法で用意した7000億ドルのなかから支出されるが、大部分はFRB自身が供給する。

財政政策でも、アメリカは今年1月に17兆円におよぶ減税策を決定している。また、1月に就任するオバマ新大統領は、30兆円程度と見られる大規模な財政出動を検討していると米メディアが伝えている。こうした政策の結果、米国財政の悪化やFRBの資産劣化、さらには資金供給増に伴うインフレ、ドルの下落が懸念されるなかでも、財政・金融政策を総動員する経済政策を断行する背景には、この30年間続けてきた新自由主義をかなぐり捨ててでも、経済の苦境を救わなければならないという強い決意がアメリカにはある。

日本だけが動かない

アメリカだけではない。イギリスも12月から09年末まで、17.5%の付加価値税率を15%に引き下げることを決めた。財源は2011年から行なわれる高額所得者への増税になりそうだ。また欧州委員会も25兆円規模の景気刺激策を提示している。こうした政策は、これまでの新自由主義が支配的だった時代には考えられなかった政策だ。もちろん、新自由主義が投機資金を野放しにしてきたことが、今回の金融危機をもたらしたのだから、当然といえば当然の政策なのかもしれない。

しかし、日本だけが動かない。財政出動も金融緩和も規模が小さすぎるし、遅すぎる。あまりに日本が後手後手に回ることから、欧州からは日本を非難する声も聞かれ始めた。

それなのになぜ麻生総理は景気対策を急がないのか。迷走は定額給付金から始まった。麻生総理は当初定額給付金の年内支給を示唆していた。10月30日に第2次経済対策を発表したときでも、麻生総理は「景気対策はスピードが重要だ」と言い、年内に支給するとしていた。

ところが、与謝野経済財政担当大臣が、「高額所得者への支給はおかしい」と言い出してから官邸は迷走を始め、高額所得者をどこで線引きするかや所得のチェック方法も含めて、最後は地方自治体に判断を丸投げしてしまった。そして、今回の法案提出見送りで、年内どころか、年度内の支給さえあやしくなってしまったのだ。

景気よりも総理の椅子を優先か

それでは、なぜ麻生総理が補正予算案の提出を見送ったのか。11月28日に行なわれた民主党の小沢代表との党首討論で麻生総理は、「1次補正が通っているので、1次補正の保証枠で年内は対応できる」「08年度の法人税収を見極めてから提出したい」と説明した。

しかし、その説明は、明らかに説得力を欠いている。そもそも麻生総理は、「景気対策はスピードが大切」で、緊急の経済対策を実施するために解散総選挙を行なっている場合ではないとずっと説明してきたからだ。

自民党の一部からは、麻生総理が法案を出さない本当の理由は、解散を避けたいからだという話が出ている。2次補正の法案を提出しても、野党が審議引き延ばしに出た場合、法案が審議未了で廃案になってしまう可能性があるというのだ。予算関連法案は、参議院で審議が引き延ばされた場合、「60日ルール」で否決とみなし、衆議院で3分の2以上の賛成で再可決ができる。しかし、年明けには通常国会があるから、60日ルールで第2次補正予算案を成立させるだけの会期延長ができないのだ。

万が一、補正予算案が廃案になれば、野党からは解散を要求され、与党からも造反の動きが出てくる。つまり、麻生総理は景気よりも自分が座る総理の椅子を優先していることになる。あまりに酷い話だ。

しかし、ここでひとつの仮定を置いてみると、麻生総理のこれまでの行動が合理的に説明できるのだ。それは、「麻生総理は、最初から解散するつもりなどなく、あらゆる犠牲を払ってでも、自分が総理大臣の地位でいられる期間を延ばそうとしている」という仮説だ。

自民党にとっては、臨時国会冒頭が解散総選挙の唯一のチャンスだった。麻生総理の支持率はまだ高かったから、与党が勝つ目も十分あったのだ。そもそも福田前総理が退陣して麻生総理が就任したのは、選挙の顔としての麻生総理に期待したからだ。その麻生総理が臨時国会冒頭の解散を見送った。我々は麻生総理の景気対策を優先したいという言葉を信じたが、麻生総理の本音はすでにそのときに、少しでも在任期間を延ばそうということだったのだろう。

解散の時期を明らかにしない麻生総理に、メディアは解散時期の観測記事を書いた。10月末、11月末、クリスマスなど様々な解散時期が取りざたされた。そのたびに報道は空振りに終わったが、振り回されたのは野党の議員だけでなく、与党の議員も同じだった。もちろん麻生総理は、解散の時期を一度として話したことはないのだが、かと言って、解散を否定することもなかった。

実は、この状態が麻生総理にとっては絶好の環境なのだ。いつ解散があるか分からない状況だと、自民党の中から公然と反麻生の狼煙を上げることができない。もし公然と歯向かったら、選挙のときに応援してもらえないかもしれないし、最悪の場合、公認を外されてしまうかもしれない。だから、誰も表立って麻生総理を変えようと言えないのだ。そのなかで、本来ワンポイントリリーフだった麻生総理が、自分の思惑通りに在任期間を延ばしているというのが実態なのだろう。

だとすると、解散総選挙の時期は今後も延ばされる可能性がある。下手をすると来年9月の任期満了まで麻生政権が続いてしまうかもしれない。それは、日本経済にとって最悪のシナリオだろう。

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎