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森永卓郎の経済探偵録
アメリカ金融危機の本質は何か

更新日:2008年10月22日

今(08年)アメリカで起きている金融危機は、サブプライム・ローンという個別の金融商品の問題ではないと森永氏は分析している。アメリカの抱える問題の本質はいったい何なのであろうか。
 


 
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アメリカの大手証券の経営はガタガタ

9月15日に米国証券業第4位のリーマン・ブラザーズ証券が経営破たんして以降、わずか半月の間に、アメリカの金融業界は、血の気が失せるほど、すっかり表情を変えてしまった。

リーマン・ブラザーズが破綻した同じ日に証券第3位のメリルリンチは、バンクオブアメリカに身売りした。さらに23日には、証券第2位のモルガン・スタンレーに対して三菱UFJフィナンシャル・グループが出資を決めた。三菱UFJの出資額は最終的に9500億円となり、モルガン・スタンレーの資本の21%を保有することになった。そして翌24日には第1位のゴールドマン・サックスが5300億円の公募増資を行なうと発表した。ゴールドマン・サックスはウォーレン・バフェット氏の投資会社バークシャー・ハザウェーにも5300億円の優先株を発行しており、合計1兆600億円の資本調達が行なわれることになる。

米国証券業界では、半年前に第5位のベーア・スターンズ社が、JPモルガンに身売りをしており、これで、わずか半年の間に全米第3位から第5位の証券会社が姿を消し、上位2社も1兆円規模で新たな資本を受け入れざるを得なくなった。総崩れと言ってもよいほど、アメリカの大手証券の経営はガタガタになっている。

それだけではない。9月25日、経営難に陥っていた貯蓄貸付組合最大手のワシントン・ミューチュアルが業務停止命令を受け経営破たんした。アメリカの銀行史上最大規模の経営破たんだった。そして、29日、経営危機に陥っていた米銀第4位のワコビアもウェルズ・ファーゴとの合併を模索している。金融危機は銀行部門にも広がったのだ。

さらに、9月29日には、金融機関が抱える不良債権を最大75兆円買い取る金融安定化法案が、造反議員が続出したために、米議会下院で否決されたことを受けて、ニューヨークダウは、同時多発テロ直後の暴落を上回る777ドルという史上最大の下落を演じた。

問題はサブプライム・ローンだけか

このまま行ったら世界恐慌になると言われるアメリカの厳しい金融危機は、サブプライム・ローンのこげつきが原因だと言われる。もちろん、きっかけは、サブプライム・ローンなのだが、サブプライム・ローンに限定して考えると問題が不鮮明になってしまう。

アメリカの住宅投資は日本円で70兆円程度だ。これがすべて住宅ローンでまかなわれていたとしても、住宅ローンのなかでサブプライム・ローンの占める割合は2割だから、年間のサブプライム・ローンの供与額は14兆円となる。サブプライム・ローンのブームは3年程度だったから、融資総額は42兆円だ。ただし、融資がこげついても、担保となっている住宅を処分すれば半分近くが回収できるから、損失はせいぜい20兆円台ということになる。

ところが、今回の金融危機で、世界の金融機関が自己資金を使って行なった損失処理は、すでに30兆円を超えている。つまり、サブプライム・ローンの損失処理は、数字の上ではすでに完了していると考えてもよいのだ。

もし、問題がサブプライム・ローンだけであれば、大手証券会社や銀行が破綻や救済合併に追い込まれるはずがないし、米国政府が75兆円もの資金を使って不良債権を買い取る必要もないはずだ。それなのに、なぜいま金融危機が起きているのかと言えば、信用バブルの崩壊がサブプライム・ローン以外にも広がっているということしか考えられない。

実際、IMF(国際通貨基金) のストロスカーン専務理事は9月24日に「今回の金融収縮に伴う損失は世界で138兆円に達する」という見通しを明らかにした。この数字が正しければ、サブプイライム・ローン以外に100兆円以上もの損失が出ていることになる。

得体の知れない「高利回り・低リスク」の証券

一体何をやったのか。その具体的内容は、アメリカの金融当局にしか分からない。ただ、アメリカの金融機関は、サブプライム・ローンだけでなく、普通の住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードのローン、さらには商業用不動産から病院まで何でも証券化してきた。しかも、投資家からの資金に何倍もの借金を加えて投資金額を水増ししてきた。さらに、金融工学を使って、それらの証券を「ブレンド」し、得体の知れない「高利回り・低リスク」の証券として売り出したのだ。それらの証券は、格付け会社が高い格付けを与えたから、金融機関は安心して買ってしまった。高利回り・低リスクなどということは本来あり得ない。

レバレッジ(てこ)を使って、資金を5倍に増やせば、収益も5倍になるが、リスクも5倍になる。例えば、不動産に投資する証券の場合、資金を5倍にして投資すると、不動産が20%値下がりしただけで、その5倍、つまり100%の損失が出る。つまり、全損になってしまうのだ。

実際、アメリカの住宅価格はすでに2006年のピーク時と比べると20%以上下落している。地域によっては不動産価格の下落率が50%を超えているところもある。こうした値下がりが、レバレッジによって増幅されると、金融機関があっという間に債務超過になってしまうということは、十分にありうる事態なのだ。

つまり、いま起きているアメリカの金融危機は、サブプライム・ローンという個別の金融商品の問題ではなく、アメリカがこの20年間膨張させてきた信用バブルが崩壊に向かっているという問題なのだ。このことは、アメリカが行なってきた金融資本主義、金融立国ということ自体が、砂上の楼閣だったということを意味している。
アメリカの金融危機の日本への影響

日本にとって、アメリカの金融危機の影響は、(1)アメリカの景気低迷とドル安(円高)に伴う輸出低迷で、日本の景気がさらに後退して給料や賞与が減少する、(2)金融機関の保有する債券が減価することで、銀行の自己資本が毀損し、その結果、貸し渋りや貸しはがしが強化される。その結果企業倒産が増える、(3)企業がリストラを進めるために、失業率が上がり、新卒や中途での就職が困難になる、という3つのルートで現われるだろう。

ただ、もっと問題なのは、日本がこれまでアメリカの経済的繁栄をにらみながら、日本の経済システムや金融システムをアメリカに合わせて変革してきたという事実だ。小泉内閣が断行した不良債権処理というのは、まさにその思想の下で行なわれた政策だ。しかし、金融資本主義が崩壊していくなかで、日本の構造改革自体を見直していかないと、今後の経済運営が覚束なくなってくる。いま日本に求められているのは、金融が実物経済を支配するのではなく、実物経済のサポートを金融が行なう、ごく普通の経済システムだろう。

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎