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森永卓郎の経済探偵録
ドルは基軸通貨から転落するのか

更新日:2008年08月28日

サブプライムローン問題によるアメリカ経済への悪影響が進行するなか、米ドルの基軸通貨としての地位を失うのではないかと言われ始めている。
森永氏は、過去に英ポンドが基軸通過の地位を失った状況と対比させ、そう遠くない将来に、ユーロが基軸通貨になる日が来るであろうと考えている。
 


 
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過去に英ポンドが基軸通貨の地位を失った理由

ドルが基軸通貨から転落するのではないかという懸念が高まっている。基軸通貨というのは、国際間の貿易や資本取引の決済に広く使われる通貨で、世界各国の通貨当局が支払い準備のために保有する外貨のことだ。戦後、基軸通貨としての圧倒的な地位を確保してきたのは米ドルで、現在でも国際取引の約8割が米ドルで行なわれている。そのため、表面的には、基軸通貨としての米ドルの地位は揺らいでいない。

しかし、欧州が統一通貨ユーロを作り、その価値が高まってきたこと、そして着実に国際取引の手段として使われるようになってきたことによって、やがて米ドルの地位をユーロが奪うのではないかという見方が台頭してきた。私は、ユーロが米ドルに代わって基軸通貨の地位を獲得する日が、そう遠くない将来に来ると考えている。

その理由を説明するために、まず英ポンドから米ドルに基軸通貨の地位が移った過程を振り返っておこう。19世紀半ばから、基軸通貨の役割を担ったのは英ポンドだった。パクス・ブリタニカと呼ばれる19世紀半ばごろから20世紀初頭までの期間、イギリスは産業革命の結果として、「世界の工場」と呼ばれるほど圧倒的な工業力を誇っていた。さらに強大な軍事力と植民地支配を背景に、経済的な繁栄を謳歌し、世界の覇権を手にしていた。当然、国際金融の舞台でもイギリスは世界の中心で、結果として英ポンドは基軸通貨の地位をほぼ自動的に手にしていたのだ。

その英ポンドが、基軸通貨から転落する直接的なきっかけとなったのは、第一次世界大戦だった。この戦争に伴う軍事費の支出や戦争被害で欧州各国は消耗し、経済が低迷した。だが、後から参戦し、本土を戦場としなかったアメリカは、むしろ戦争特需で経済が潤った。ここで欧州経済とアメリカ経済の主従が逆転したことがきっかけとなり、第二次世界大戦後にアメリカが各国中央銀行に対して米ドルの金兌換を約束したことが、米ドルが基軸通貨の地位をイギリスから奪う原因となった。

しかし、私はそうしたことは、あくまでも表面的な現象であり、イギリスが基軸通貨国から転落した本質的な原因は、基軸通貨国としての地位にあぐらをかいたことだと考えている。

基軸通貨国は、ある意味で「世界の中央銀行」の立場を手にすることができる。ポンドにしろ、ドルにしろ、基軸通貨になると、世界中の国が決済用の通貨として欲しがるのだから、極論すると、紙切れを刷るだけで、それがお金として世界中で通用してしまうのだ。しかも、基軸通貨は世界から決済用通貨としての需要が膨らんでいくから、実力以上に高く評価されることになる。

イギリスが転落したのは、まさにそのことが背景となった。ポンド高のなかで、輸入品は安く買えるし、輸出は難しくなるから、国内の製造業は衰退していく。一方、世界中から資金が集まってくるから、その資金を使って「世界の高利貸し」として君臨することで、投資収益だけで暮らせるようになってしまうのだ。

しかし、世界の高利貸しとして長く君臨できた国は歴史上ない。イギリスもその例外ではなかった。第一次世界大戦で莫大な戦費を使ったイギリスは、やがて海外、特に米国から借金をするようになり、そして1929年から始まった世界恐慌に伴う世界的な株価下落は、金融立国をしていたイギリスに決定的なダメージを与えてしまった。それが、イギリスが基軸通貨国から転落した本質的な原因なのだ。

米ドルの危うい現状

いまのアメリカとそっくりであることがお分かりだろう。1960年代まで、アメリカは世界の工場だった。家電産業、自動車産業、工作機械産業など、アメリカのモノづくりは、技術面でも、生産面でも世界の王者だった。しかし、強いドルは、アメリカの製造業を少しずつ衰退させた。そこで、アメリカは金融業を中心に経済を構築するようになる。しかも、かつてのイギリスのように豊富な純資産を持つことで金融業を発展させたのではなく、世界中から集めた資金で金融業を行なっていたのだ。

現在、アメリカは70兆円もの経常収支赤字を出している。これは、国内で作られる財やサービスより70兆円も余分に消費や投資をしていることを意味する。家庭で言えば、収入に見合わない豪華な家に住んで、贅沢な暮らしをしているということだ。70兆円の赤字というのは、もちろん世界最大だ。

ところが、そんな大赤字を出しながらも、アメリカ経済はビクともしなかった。それは、米ドルが基軸通貨であるとともに、アメリカの高金利につられて、赤字を大きく上回る投資資金が入ってきたからだ。余分に入ってきた資金を元手に、世界中で投機を繰り返して、金儲けをする。それが、アメリカのビジネスモデルとなってきたのだ。

しかし、そのビジネスモデルが大きく揺らいできた。それは、日米間の資金の流れで考えると分かりやすいだろう。昨年秋まで、日米間には4〜5%の金利差が存在した。ドルで資金を運用すれば、4〜5%の金利が得られるが、円で運用してもほとんど利回りは得られない。そこで米国債を組み込んだ投資信託やドル預金という形で、日本の資金が米国に流れていく。そのとき、円をドルに換えて運用するから、ドルの需要が増える。そのため、ドルがさらなる高値に向かい、為替差益まで得られてしまうという事態が生じたのだ。

ところが、ドル高を維持してきた高金利は失われてしまった。サブプライムローン問題に伴う景気後退を防ぐため、米国連邦準備制度理事会は、07年秋から累積で3.25%もの金利引き下げを行なった。その結果、日米の金利差は急速に縮小した。ドルへの投資が有利でなくなったのだから、長い目で見ればドルへの投資資金は細らざるを得ないのだ。それは、アメリカの金融業がタネ銭を失うことを意味する。

さらに、本質的な問題は、アメリカの投機資金を振り向けてきた原油や穀物や金といった資源の価格が、最近になって暴落の兆しをみせていることだ。イギリスの金融資本が世界恐慌にともなう資産価格の下落で転落したのと同様に、アメリカ経済を支えてきた金融資本は、いままさに消滅の危機に直面しているのだ。

基軸通貨を支えるのは、安定した経済だ。その基盤が資源バブルの崩壊で揺らげば、基軸通貨は意外にあっさりと、ユーロに移ってしまうのではないだろうか。

プロフィール

獨協大学経済学部教授 森永卓郎