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森永卓郎の経済探偵録
若者の購買意欲を掘り起こす手段は

更新日:2008年06月26日

若者向け雑誌が節約特集を組むなど「節約ブーム」が到来しているようだ。総務省「家計調査」からは、29歳以下の世帯主の場合、可処分所得が伸びているのに消費支出が減っている事実が示されている。若者の購買意欲を掘り起こす手段はあるのだろうか。時間軸の多様化と空間軸の多様化。ここに若者の購買意欲が潜んでいると森永氏は分析する。
 


 
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可処分所得が伸びているのに消費支出が減っている

最近、若者向けの商品が売れなくなっている。確かに周囲を見渡すと「節約ブーム」で、せっせと貯金にはげむ若者が目立っている。若者向け雑誌が節約特集を繰り返したり、任天堂DSで家計簿をつけたり、どうやら若者は本格的に消費を抑制しはじめたらしい。

そこで、まず総務省「家計調査」で若者の所得や消費がどのように変化しているのかをみてみよう。といっても、家計調査で、単身世帯と2人以上世帯の合算数字が公表されるようになったのが2005年であるため、若年層の所得や消費の動きについては、2005年から2007年にかけての2年間分しか接続性のあるデータが取れない。

とりあえず、この2年間の世帯主が29歳以下の世帯の収入支出の変化をみよう。実収入は2年間で4.1%、そして可処分所得は3.6%増えている。可処分所得の伸びのほうが小さいのは、税金や社会保険料で構成される非消費支出が6.9%も伸びているからだ。一方、消費支出は0.1%減少している。可処分所得が伸びているのに消費支出が減っているというのは、若者が消費を抑制しているということを示している。つまり消費性向が下がっているのだ。

具体的な費目ごとに消費支出の伸びをみると、食料▲0.4%、住居0.9%、光熱水道11.3%、家具・家事用品▲2.1%、被服・履物▲10.4%、保健医療▲5.1%、交通通信▲1.4%、教育0.4%、教養娯楽▲12.2%、その他15.3%となっている。ほとんどの費目が減少するなかで、増えているのは住居費、光熱水道、教育費、その他消費だけだ。

しかも、教育費は実額で月間1625円、消費支出全体に占める割合は0.8%にすぎない。つまり、節約の難しい住居費を除くと生活のすべての項目で節約が行なわれているとみられるのだ。とくに、裁量性の大きい被服・履物(ファッション)が▲10.4%、教養娯楽が▲12.2%と、いずれも2ケタの落ち込みとなっていることに、若年層が生活の楽しみを犠牲にしてでも、節約に走っている姿が見てとれる。

貯蓄を持っていないと安心して暮らせない雇用環境

ただ私は、事態はもっと深刻なのではないかと考えている。莫大な作業量が求められる家計調査は、じつは、生活に余裕がある人しか調査を引き受けられない。法律で義務になっているが、現実問題としては、貧乏暇なしの庶民には、とても引き受けられる作業量ではないのだ。実際、フリーターなどの低所得層が家計調査を引き受けたという話を聞いたことがない。

家計調査でみると、2007年の勤め先収入の平均値は、年間で366万円になっている。非正社員の平均年収は200万円程度だから、家計調査に回答しているのは、大部分が正社員世帯である可能性が高いのだ。

それでは、正社員ではない層はどれだけいるのか。2007年の「労働力調査」によると、15〜24歳の役員を除く雇用者に占める正社員の割合は53.4%、パート・アルバイトは37.2%、派遣社員が3.3%、契約社員・嘱託が4.6%、その他が1.5%となっており、非正社員は全体で46.6%となっている。つまり、若年層の半分近くが、すでに非正社員になっているのだ。

非正社員は、所得が低いだけでなく、いつリストラされるかわからないというリスクにさらされている。だから、少ない所得のなかからも、貯蓄をしていかなければならないのだ。いつ無収入になるかわからなかったら、ある程度の貯蓄を持っていないと、安心して暮らせないのだ。

したがって、若者の消費を喚起するための、もっともオーソドックスな手法は、若者が将来に不安を感じなくてよいように、彼らの就業環境を改善することだ。具体的には、雇用形態による労働条件の差別を禁止したり、最低賃金を引き上げたり、派遣労働の対象職種を絞り込むなどして、若者の雇用と所得が安定すれば、若者たちも再び消費を拡大していくだろう。ただ、こうした対策を取れるのは政府だけなので、民間企業にはどうにもならない。

短期で切り替わる流行への対処、オーダーメード商品の開発

民間企業が唯一可能な対策は、若者の将来不安を吹き飛ばしてしまうほどの魅力を持った商品の開発だ。そんなことが可能なのかと思われるかもしれないが、私は可能だと思っている。それは、若者の間で進行する爆発的なニーズの多様化に対応することだ。

ニーズの多様化には、時間軸の多様化と空間軸の多様化がある。時間軸の多様化とは、目まぐるしく変わる流行にキャッチアップするということだ。たとえば、若い女性向けのファッションに特化して業績を伸ばしている渋谷の109では、最新の流行にいかに早くキャッチアップするかで、テナント同士がしのぎを削っている。

若い女性のファッションは、2週間程度で新しい流行に切り替わってしまう。だから、それに対応するために、メーカーにも厳しい短納期が求められるようになっている。ただ、そのことはメーカーにとって、逆に大きなビジネスチャンスが生まれたともいえるのだ。ライバル企業を出し抜くほどの短納期を実現できれば、受注を拡大できるし、素早い新製品の開発は、需要そのものを拡大していくからだ。

一方、空間軸の多様化というのは、商品そのものの多様化だ。誰でも自分自身の感性にあった自分にぴったりの商品を買いたいと思っている。そのニーズに対応する究極の商品が、オーダーメードの商品だ。いままでは、オーダーメード商品というのは、庶民にとっては高嶺の花だった。ところが、インターネットの発達で、低価格のオーダーメード商品が現実にいくつも登場している。

たとえば、自分がデザインしたチロルチョコとか、自分でデザインを決められるベーゴマとか、デザインを自由に決められるTシャツなど、まさにオーダーメード商品の百花繚乱なのだ。なぜ、オーダーメード商品が低価格で作れるようになったのかといえば、ITが発達したことによる影響が大きいだろう。たとえば各自がパソコンでデザインした版下をメーカーに電子メールで送ると、そのデザインのデータをメーカーが読み込み、オーダーメード商品を作ってしまうのだ。仕様をすり合わせるための打ち合わせなどは、一切必要ない。だから低価格で商品を売ることができるのだ。

こうした時間軸と空間軸の多様化にきちんと対応できる会社が増えていけば、おのずと若者の消費も復活してくるのではないだろうか。

プロフィール

三菱UFJリサーチ&コンサルティング客員研究員/獨協大学経済学部教授 森永卓郎